愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.104
ADHDの薬物療法、薬の種類・効果・副作用を正しく理解する
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。 前回の Vol.102 では ADHD の診断と評価についてお話ししました。今回は、多くの保護者の方が気になる「薬物療法」について詳しく解説します。 「薬を飲ませることに抵抗がある」というご相談は非常に多いのですが、正しい知識を持つことで、お子さんにとって最善の判断ができるようになります。 エビデンスに基づいて、一つひとつ丁寧にお伝えしていきます。
Q1.「ADHDの治療で薬は必ず必要ですか?」
——5歳の息子がADHDと診断されました。先生から薬の話が出たのですが、こんなに小さいうちから薬を飲ませるべきなのでしょうか?
とても大切な質問ですね。結論から言うと、ADHDの治療は薬だけではありません。治療の基本は『環境調整』と『行動療法』です。薬物療法は、それらだけでは十分に改善しない場合に検討します [1][2]。
日本小児神経学会のガイドラインでは、就学前(6歳未満)のお子さんには、まず行動療法やペアレントトレーニングを優先することが推奨されています。6歳以上でも、環境調整や心理社会的介入を行ったうえで、学校生活や日常生活に著しい支障がある場合に薬物療法を併用するのが一般的な流れです [1]。」
内容
- 第1段階
- 環境調整(座席配置、指示の工夫等)
- 第2段階
- 行動療法・ペアレントトレーニング
- 第3段階
- 薬物療法の併用
対象
- 第1段階
- 全年齢
- 第2段階
- 全年齢(就学前は特に重要)
- 第3段階
- 主に6歳以上、支障が大きい場合
ポイント
- 薬は「治す」ためではなく「困りごとを軽減する」ために使います
- 薬物療法だけで全てが解決するわけではありません
- 環境調整+行動療法+薬物療法の「三本柱」が大切です
Q2.「日本で使えるADHD治療薬にはどんな種類がありますか?」
——薬にもいろいろ種類があると聞きました。違いを教えてください。
2025年現在、日本で小児のADHDに使用できる薬は主に4種類あります [2][3]。大きく分けると『中枢刺激薬』と『非中枢刺激薬』に分類されます。
| 薬剤名(一般名) | 商品名 | 分類 | 適応年齢 | 服用回数 | 効果発現 |
|---|---|---|---|---|---|
| メチルフェニデート徐放錠 | コンサータ | 中枢刺激薬 | 6歳以上 | 1日1回(朝) | 服用後1〜2時間 |
| リスデキサンフェタミン | ビバンセ | 中枢刺激薬 | 6歳以上 | 1日1回(朝) | 服用後1〜2時間 |
| アトモキセチン | ストラテラ | 非中枢刺激薬(NRI) | 6歳以上 | 1日1〜2回 | 2〜6週間で効果安定 |
| グアンファシン徐放錠 | インチュニブ | 非中枢刺激薬(α2作動薬) | 6歳以上 | 1日1回 | 1〜2週間 |
ポイント
- 中枢刺激薬は効果が早く実感しやすいが、管理が厳格(登録医のみ処方可)
- 非中枢刺激薬は効果発現がゆるやかだが、依存性のリスクがない
- お子さんの症状や生活パターンに合わせて選択します
Q3.「それぞれの薬はどのように効くのですか?」
——脳に作用する薬と聞くと少し怖いのですが、どういう仕組みで効くのでしょうか?
ご不安はもっともです。簡単に説明しますね。ADHDでは脳内の『ドパミン』や『ノルアドレナリン』といった神経伝達物質の働きが十分でないことが分かっています。薬はこれらの物質のバランスを整える作用があります [3][4]。
メチルフェニデート(コンサータ) は、ドパミンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害して、シナプス間隙の濃度を高めます。注意力の維持や衝動性の抑制に効果があります。徐放製剤なので朝1回の服用で約12時間効果が持続します。
リスデキサンフェタミン(ビバンセ) は、体内で活性体に変換されるプロドラッグです。コンサータと同様にドパミン・ノルアドレナリンの濃度を高めますが、乱用リスクが低い設計になっています。約13時間効果が持続します [3]。
アトモキセチン(ストラテラ) は、ノルアドレナリンの再取り込みを選択的に阻害します。前頭前皮質のドパミン濃度も間接的に高めます。24時間持続的に効果があり、中枢刺激薬と違い依存性がありません [4]。
グアンファシン(インチュニブ) は、α2Aアドレナリン受容体に作用して、前頭前皮質の神経伝達を改善します。多動・衝動性への効果が比較的強く、不安やチックの合併があるお子さんにも使いやすい薬です [3]。」
ポイント
- 脳の「信号の伝わりにくさ」を改善するのが薬の役割です
- 「脳を変えてしまう」のではなく「足りない部分を補う」イメージです
- 眼鏡で視力を補うように、薬で注意力を補うと考えてください
Q4.「副作用が心配です。どんなことに注意すればよいですか?」
——食欲が落ちるとか、眠れなくなるとか聞いたことがあります。実際はどうですか?
副作用については正直にお伝えすることが大切だと考えています。主な副作用は薬の種類によって異なります [4][5]。
| 副作用 | コンサータ | ビバンセ | ストラテラ | インチュニブ |
|---|---|---|---|---|
| 食欲低下 | ◎(高頻度) | ◎(高頻度) | ○(中頻度) | △(低頻度) |
| 不眠 | ○(中頻度) | ○(中頻度) | △(低頻度) | △(低頻度) |
| 頭痛 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 腹痛・吐き気 | ○ | ○ | ◎(開始時に多い) | △ |
| 眠気 | △ | △ | △ | ◎(高頻度) |
| 血圧低下 | △ | △ | △ | ○ |
| チック悪化 | △(注意が必要) | △ | △ | -(むしろ改善の報告も) |
食欲低下への対策としては:
- 朝食をしっかり食べてから服用する
- 薬の効果が切れる夕方〜夜に栄養を補う
- 高カロリーの間食を活用する
- 定期的に身長・体重をフォローする
成長への影響について: 中枢刺激薬の長期使用で成長速度がやや低下するという報告がありますが、最終身長への影響は限定的とされています。定期的な成長曲線のモニタリングが重要です [5]。」
ポイント
- 副作用の多くは服用開始時に出やすく、数週間で軽減することが多い
- 定期的な診察で副作用をモニタリングすることが大切
- 副作用が強い場合は、用量調整や薬の変更が可能です
Q5.「薬はいつまで飲み続けるのですか?やめられますか?」
——一度始めたらずっと飲み続けなければいけないのでしょうか?依存性も心配です。
これもよく聞かれる質問です。ADHDの薬は『一生飲み続けなければならない』というものではありません [6][7]。
まず依存性について。非中枢刺激薬(ストラテラ、インチュニブ)には依存性はありません。中枢刺激薬(コンサータ、ビバンセ)は薬理学的には依存性のある物質ですが、ADHDの治療量で医師の管理のもと使用する場合、依存を形成するリスクは極めて低いことが多くの研究で示されています [6]。むしろ、適切に治療されたADHDの子どもは、未治療の子どもと比べて将来の物質乱用リスクが低いという報告もあります。
薬の中止について は、年に1回程度「休薬トライアル」を行うことが推奨されています。たとえば長期休暇中に一定期間薬を中止し、薬なしでの状態を評価します。症状が十分に改善していれば、減量・中止を検討します [7]。
一般的に思春期以降にADHDの症状(特に多動性)が軽減するお子さんもおり、成長とともに薬が不要になるケースは少なくありません。一方で、成人期にも治療が必要な方もいます。」
| 時期 | 対応 |
|---|---|
| 服用開始〜安定期 | 2〜4週ごとの受診で用量調整 |
| 安定期 | 1〜3ヶ月ごとの定期受診 |
| 年1回程度 | 休薬トライアルの検討 |
| 思春期以降 | 症状の再評価、減量・中止の検討 |
ポイント
- 薬は「必要な時期に、必要な分だけ」使うものです
- 自己判断での中断は症状の急な悪化につながるため避けてください
- 休薬や中止は必ず主治医と相談のうえ計画的に行いましょう
今号のまとめ
- ADHDの薬物療法は環境調整・行動療法と組み合わせる「三本柱」の一つ
- 日本では4種類の薬が使え、お子さんの症状に合わせて選択する
- 副作用は多くが一時的で、定期的なモニタリングと調整で管理可能
- 薬は「治す」ものではなく「困りごとを軽減する」ためのサポートツール
- 成長とともに減量・中止できるケースも多い
あわせて読みたい
- Vol.101「ADHD(注意欠如・多動症)の基礎」
- Vol.102「ADHDの診断と評価」
- Vol.117「発達障害の二次障害」
ご質問・ご感想
薬について不安なこと、実際に服薬中のお子さんの様子で気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。次回の Vol.105 では「ASDのコミュニケーション支援」についてお話しします。
愛育病院 小児科 おかもん先生
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