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喘息の長期管理、「発作を止める」から「発作を起こさない」へ
Vol.165アレルギー

喘息の長期管理、「発作を止める」から「発作を起こさない」へ

喘息は「発作の病気」ではなく「気道の慢性炎症」。発作がない時も気道はくすぶっている

アレルギー全年齢15
おかもん先生小児科専門医愛育病院 小児科

参考文献 8·Q&A 6問収録

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この記事のポイント

  • 喘息は「発作の病気」ではなく「気道の慢性炎症」。発作がない時も気道はくすぶっている
  • 吸入ステロイド薬(ICS)は長期管理の柱。正しい吸入手技と毎日の継続が効果のカギ
  • 「発作が出なくなった=治った」ではない。自己判断での中止が最も危険

愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.165

喘息の長期管理、「発作を止める」から「発作を起こさない」へ

今号のポイント

  1. 2
    喘息は「発作の病気」ではなく「気道の慢性炎症」。発作がない時も気道はくすぶっている
  2. 4
    吸入ステロイド薬(ICS)は長期管理の柱。正しい吸入手技と毎日の継続が効果のカギ
  3. 6
    「発作が出なくなった=治った」ではない。自己判断での中止が最も危険

こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。

今回のテーマは喘息の長期管理です。

Vol.75では「小児喘息の基礎」として、喘息がどんな病気か、発作時の対応についてお伝えしました。今号はその続編、発作を「止める」のではなく「起こさない」ための長期管理にフォーカスします。

「発作のたびに救急外来に駆け込んでいる」「吸入薬を続ける意味がわからない」というご家庭にとって、喘息との付き合い方が変わるお話です。

Q1.「喘息って発作の時だけ治療すればいいんじゃないですか?」

——発作が出たらβ刺激薬(メプチン)を吸入して、落ち着いたら普通に過ごしています。それだけじゃダメなんですか?

その治療だけでは不十分な場合が多いです。喘息の本質を理解すると、その理由がわかります。喘息は"発作の病気"ではなく"気道の慢性炎症"なんです [1][2]

——慢性炎症……? 発作がない時もですか?

はい。喘息のお子さんの気道は、発作がない時も常に軽い炎症が起きて腫れている状態です [1]。正常な気道に比べて①粘膜が腫れている、②痰が溜まりやすい、③刺激に敏感(気道過敏性)、この3つの特徴があります。ここに風邪やダニ、運動などの刺激が加わると、急激に気道が狭くなって発作が起きるんです [1][2]

気道の様子

発作時
気道が急激に狭くなる → ゼーゼー・ヒューヒュー
発作がない時
気道は一見正常だが慢性炎症がくすぶっている

治療

発作時
気管支拡張薬(メプチン等)で急いで広げる [2]
発作がない時
吸入ステロイド薬(ICS)で炎症を抑え続ける [2]

メプチンなどの気管支拡張薬は"消火器"、今まさに起きている発作を鎮める薬です。一方、吸入ステロイド薬は"防火設備"、そもそも発作が起きにくい気道を作る薬です。消火器だけあっても、防火設備がなければ何度も火事が起きてしまいますよね [2]

——発作の薬だけでは根本的な解決にならないんですね……

その通りです。しかも、発作を繰り返すと気道がどんどん硬くなっていくリモデリング(気道のリフォーム=線維化)が進み、薬が効きにくくなることがあります [1]。だからこそ、発作がない時こそ治療が必要なんです

ポイント

  • 喘息は気道の慢性炎症。発作がない時も炎症はくすぶっている [1]
  • 気管支拡張薬は"消火器"、吸入ステロイド薬は"防火設備" [2]
  • 発作の繰り返しで気道リモデリングが進行。早期の長期管理が重要 [1]

Q2.「重症度ってどうやって決めるんですか? 治療のステップを教えてください」

——うちの子は月に1〜2回ゼーゼーします。これは軽いほうですか?

喘息の重症度は、治療前の症状の頻度で分類します [2][3]。お子さんの重症度に合わせて、治療のステップを選択するのが基本です

重症度分類(小児・6歳以上)

症状の頻度

間欠型
年に数回〜月1回未満
軽症持続型
月1回以上〜週1回未満
中等症持続型
週1回以上(毎日ではない)
重症持続型
毎日

夜間症状

間欠型
なし
軽症持続型
月2回未満
中等症持続型
月2回以上
重症持続型
しばしば

月に1〜2回ゼーゼーするということは、軽症持続型に該当します [2]。この場合、長期管理薬が必要です

治療ステップ(小児喘息治療・管理ガイドライン2023に基づく)

長期管理薬

Step 1
低用量ICS or LTRA
Step 2
低〜中用量ICS + LTRA
Step 3
中〜高用量ICS + LTRA + LABA(長時間作用型β刺激薬)
Step 4
Step 3 + 経口ステロイド or 生物学的製剤

対象

Step 1
軽症持続型 [2][3]
Step 2
中等症持続型 [2][3]
Step 3
重症持続型 [2][3]
Step 4
最重症・難治 [2][3]

——ICSとかLTRAって何ですか?

ICSは吸入ステロイド薬(Inhaled Corticosteroid)、LTRAはロイコトリエン受容体拮抗薬の略です。次のQ3とQ4で詳しくご説明しますね。大切なのは、発作がコントロールできたら段階的にステップダウン(治療を弱めること)し、逆にコントロール不良ならステップアップ(治療を強化すること)するという考え方です [2]。3ヶ月以上安定していればステップダウンを検討します

ポイント

  • 重症度は症状の頻度で4段階に分類 [2]
  • 治療はStep 1〜4のステップ方式。重症度に応じて選択 [2][3]
  • 安定したらステップダウン、悪化したらステップアップ [2]

Q3.「吸入ステロイド薬(ICS)は安全ですか? どんな種類がありますか?」

——ステロイドと聞くと不安になります。毎日吸入して大丈夫なんですか?

Vol.13でもお伝えしましたが、吸入ステロイドは局所(気道)に直接届く薬なので、全身への影響はほとんどありません [2][4]。内服のステロイド(プレドニゾロンなど)とは根本的に異なります

吸入ステロイド薬(ICS)

作用範囲
気道に直接作用(局所)
1日の投与量
μg(マイクログラム)単位
全身性副作用
ほぼなし [4]
成長への影響
一時的に0.5〜1cm/年の遅れの報告あるが、最終身長への影響は軽微 [4]

内服ステロイド

作用範囲
全身に作用
1日の投与量
mg(ミリグラム)単位
全身性副作用
長期使用で骨・成長への影響あり
成長への影響
あり

——身長への影響が気になります……

大規模な長期追跡研究(CAMP試験)では、低用量ICSを使用した小児で治療開始後1〜2年目に身長の伸びが約0.5cm遅くなる傾向が見られましたが、最終的な成人身長への影響は約1.2cmと報告されています [4]。一方で、喘息の発作による入院・呼吸不全・QOL低下のリスクと天秤にかけると、ICSの利益が明らかに上回ります [2][4]

小児に使われる主な吸入ステロイド薬

薬剤名商品名デバイスの種類特徴
フルチカゾンプロピオン酸エステルフルタイドpMDI(スプレー式)低年齢児にはスペーサー+マスクで [2]
ブデソニドパルミコートネブライザー(吸入液)乳幼児にも使いやすい。ネブライザーで吸入 [2]
フルチカゾンフランカルボン酸エステルアニュイティDPI(粉末式)1日1回。5歳以上で吸入操作ができれば [2]
モメタゾンフランカルボン酸エステルアズマネックスDPI(粉末式)1日1回。吸入手技が必要

年齢と吸入手技の能力に合わせてデバイスを選びます。0〜2歳はネブライザー、2〜5歳はスペーサー+マスク付きpMDI、6歳以上は自分で吸えるDPIやpMDI+スペーサーが目安です [2]。どんなに良い薬でも、正しく吸えなければ効きません。吸入手技の確認は外来で必ず行いましょう

ポイント

  • 吸入ステロイドは局所作用で全身への影響はほとんどない [2][4]
  • 身長への影響は軽微(約1.2cm)。発作のリスクと比べて利益が上回る [4]
  • 年齢に合ったデバイス選びと正しい吸入手技が効果のカギ [2]

Q4.「ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)って何ですか?」

——モンテルカスト(シングレア/キプレス)を処方されましたが、これは何の薬ですか?

モンテルカストはロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)に分類される飲み薬です [5]。ロイコトリエンは気管支を収縮させ、粘膜を腫れさせ、痰を増やす物質で、喘息の炎症に深く関わっています。この物質のはたらきをブロックするのがLTRAです [5]

項目内容
薬剤名モンテルカスト(シングレア/キプレス)[5]
対象年齢1歳以上(細粒:1〜5歳、チュアブル:6〜14歳、錠剤:15歳以上)
投与方法1日1回、就寝前に内服 [5]
効果気管支の炎症・収縮を抑制。特に運動誘発喘息に有効 [5]
副作用少ない。まれに悪夢・行動変容の報告あり(FDA警告)[6]
位置づけStep 1ではICSの代替、Step 2以降ではICSとの併用 [2][3]

——飲み薬なので、吸入が難しい小さい子にも使えるんですね

はい。LTRAの大きなメリットは内服薬なので吸入手技が不要という点です [5]。1〜2歳の小さいお子さんで吸入がまだ難しい場合、Step 1の治療としてLTRA単独で開始することもあります [2]。また、アレルギー性鼻炎を合併している喘息のお子さんでは、鼻症状と喘息の両方に効果があるため特に有用です [5]

——悪夢の副作用が心配です……

FDAの安全性情報として報告されていますが、頻度は低く、多くのお子さんでは問題なく使用できます [6]。万が一、服用開始後に悪夢・興奮・不安などの行動変容が見られた場合は、すぐにかかりつけ医にご相談ください。中止すれば改善します [6]

ポイント

  • LTRA(モンテルカスト)は飲み薬で吸入不要。1歳から使用可能 [5]
  • 運動誘発喘息やアレルギー性鼻炎の合併例に特に有効 [5]
  • 行動変容の副作用はまれ。気になったらすぐ相談を [6]

Q5.「ピークフローメーターって何ですか? 使ったほうがいいですか?」

——病院でピークフローメーターを勧められましたが、どう使えばいいんですか?

ピークフローメーターは、息を思いっきり吐いた時の最大の速さ(ピークフロー値: PEF)を測る簡易な器具です [7]。喘息の状態を数値で客観的に把握できるため、特に学童期以降のお子さんに有用です

——どうやって測るんですか?

使い方は簡単です

  1. 2
    目盛りをゼロに戻す
  2. 4
    立った姿勢で、できるだけ深く息を吸う
  3. 6
    メーターをくわえて、できるだけ速く・強く息を吐き出す
  4. 8
    3回測って最も大きい値を記録する
  5. 10
    毎日同じ時間帯(朝と夕)に測定するのが理想 [7]
ゾーンPEF値(自己ベスト比)意味対応
グリーンゾーン80%以上良好。コントロールできている長期管理薬を継続 [7]
イエローゾーン50〜80%注意。気道が狭くなり始めている発作治療薬を使用 + かかりつけ医に連絡 [7]
レッドゾーン50%未満危険。重症発作のおそれすぐに発作治療薬 + 医療機関を受診 [7]

ピークフローメーターの最大の利点は、症状が出る前に気道の状態が悪化していることに気づける点です [7]。喘息日誌にPEF値・症状・薬の使用状況を記録しておくと、受診時にかかりつけ医が治療の調整をしやすくなります

——何歳くらいから使えますか?

一般的に、5〜6歳以上で指示通りに力いっぱい息を吐ける年齢になれば使えます [7]。小さいお子さんの場合は、保護者の方が症状(咳、ゼーゼー、運動時の息切れ、夜間の咳)を日誌に記録するだけでも十分有用です

ポイント

  • ピークフローメーターで気道の状態を数値で客観的に把握 [7]
  • グリーン(80%以上)・イエロー(50〜80%)・レッド(50%未満)の3ゾーンで管理 [7]
  • 症状が出る前に悪化を察知できる。5〜6歳以上が目安

Q6.「発作がなくなったら薬をやめてもいいですか?」

——最近は全然発作が出ません。もう薬はいらないんじゃないですか?

お気持ちはわかりますが、『発作が出ない=治った』とは限りません。発作が出ないのは薬がしっかり効いているからであって、やめたら炎症が再燃する可能性があります [2]。自己判断で中止すると、数週間〜数ヶ月後に重い発作が起きることがあり、これが最も危険なパターンです [2][8]

——じゃあ、一生薬を続けるんですか?

いいえ、永遠に続けるわけではありません。3ヶ月以上発作がなく安定していれば、段階的にステップダウンします [2]。大切なのは、自己判断でやめないということです

ステップダウンの流れ具体例
Step 2 → Step 1ICS + LTRA → ICSまたはLTRA単独に [2]
Step 1 → 中止検討低用量ICSまたはLTRA → さらに3ヶ月安定 → 中止を試みる [2]
中止後のフォロー中止後3〜6ヶ月は定期受診で経過観察 [2]

小児喘息は、適切に管理すれば多くのお子さんが思春期までに症状が軽快します [8]。ただし、完全に"卒業"できるお子さんと、成人喘息に移行するお子さんがいます。リスク因子としては、アトピー素因が強い、ダニ感作がある、発症が遅い、肺機能が低下している、などが挙げられます [8]。長期管理をきちんと行い、気道のリモデリングを防ぐことが、喘息を"卒業"する最善の方法です

ポイント

  • 「発作が出ない=治った」ではない。薬が効いている証拠 [2]
  • 自己判断での中止が最も危険。3ヶ月安定→段階的にステップダウン [2]
  • 小児喘息の多くは思春期までに軽快するが、長期管理の継続が"卒業"の近道 [8]

まとめ

  • 喘息は気道の慢性炎症。発作がない時も治療が必要 [1][2]
  • 治療はステップ方式。重症度に応じてICS、LTRA、LABAなどを組み合わせる [2][3]
  • 吸入ステロイド薬(ICS)が長期管理の柱。局所作用で安全性は高い [2][4]
  • LTRA(モンテルカスト)は飲み薬で吸入不要。1歳から使え、運動誘発喘息にも有効 [5]
  • ピークフローメーターで気道の状態を数値化。発作の予兆を早期発見 [7]
  • 自己判断での中止は厳禁。3ヶ月安定→段階的にステップダウンが原則 [2]

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