愛育病院 小児科おかもん だより Vol.18
「高熱で子どもが暴れ出した!」、熱せん妄とインフルエンザ異常行動
今号のポイント
- 2熱せん妄は高熱時に子どもの約4人に1人が経験する一時的な現象で、後遺症は残らない
- 4タミフルが原因ではなく、インフルエンザそのものによる脳の一時的な反応
- 6対応の基本は安全確保(窓の施錠・転落防止)と見守り
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
お子さんが高熱を出した時に、突然「知らない人がいる!」と怖がったり、意味不明なことを叫んだり、部屋を走り回ったりした経験はありませんか。これは「熱せん妄」(高熱で一時的に脳の働きが乱れ、幻覚や興奮が起きる状態)です。見た目はかなり怖いのですが、実はそれほど珍しい話ではなく、ほとんどは数分で治まって後遺症も残りません。
今回は、熱せん妄とインフルエンザの異常行動の違い、家庭での対応についてお伝えします。
Q1.「熱せん妄って何ですか?普通のうわごととは違うんですか?」
お父さん「4歳の子がインフルエンザで40度の熱を出したとき、突然「虫がいる!」と叫んで泣き出しました。すごく怖かったです」
それは熱せん妄(febrile delirium)と呼ばれる状態です。高熱によって一時的に脳の機能が乱れ、幻覚や錯乱、興奮状態になることをいいます。実は子どもの約3〜4人に1人が高熱時に何らかの熱せん妄症状を経験するという調査報告もあります [1]
お父さん「4人に1人!そんなに多いんですか」
はい。お父さんが経験されたように、見えないものが見える(幻視)が最も多い症状です。他にも次のような症状があります
- 意味不明なことを言う(うわごと)
- 突然怖がる、泣き叫ぶ
- 急に起き上がって走り出す
- 手を振り回す、暴れる
- ぼーっとして反応が鈍い
多くは数分〜十数分で自然に治まり、熱が下がれば完全に元に戻ります。後遺症が残ることもありません
ポイント
- 熱せん妄は高熱時に約25-30%の子どもが経験する一時的な脳の反応 [1]
- 幻視、興奮、うわごとなどの症状が出る
- 多くは数分で治まり、後遺症はない
Q2.「インフルエンザの「異常行動」と熱せん妄は違うものですか?」
お父さん「ニュースで「インフルエンザの異常行動で子どもが窓から飛び降りた」という話を聞いたことがあります。うちの子の症状もそれなんでしょうか?」
インフルエンザの異常行動と熱せん妄は、基本的に同じメカニズムで起こると考えられています。インフルエンザウイルスは高熱を引き起こしやすく、さらにウイルスそのものが脳に影響を与える可能性もあるため、他の風邪よりも異常行動が起きやすいのです [2]
お父さん「タミフルを飲んだから異常行動が出る、という話は本当ですか?」
厚生労働省が行った大規模な疫学調査(たくさんの患者さんのデータを集めて分析する調査)(2007-2011年)では、タミフル(オセルタミビル)を飲んだ子と飲んでいない子で、異常行動の発生頻度に統計的な有意差は認められませんでした [2]。現在では、異常行動の原因はタミフルではなくインフルエンザそのもの(高熱とウイルスの脳への影響)によるものと考えられており、2018年に10代への処方制限も解除されています
お父さん「薬のせいではないんですね。安心しました」
はい。ですから、異常行動が怖いからタミフルを飲ませないという判断は正しくありません。むしろ抗インフルエンザ薬で早期に解熱させることで、リスクを下げられる可能性もあります
ポイント
- インフルエンザの異常行動と熱せん妄は同じメカニズム
- タミフルと異常行動の間に統計的有意差は認められていない(厚生労働省の大規模調査)[2]
- 異常行動の原因はインフルエンザそのもの
Q3.「子どもが暴れ出したとき、どうすればいいですか?」
お父さん「急に暴れ出したらパニックになりそうです。正しい対応を教えてください」
熱せん妄が起きたときの5つの対応ステップを覚えておいてください
ステップ1: 安全を確保する
- 窓の鍵をかける(特にマンションの高層階は必ず)
- ベッドの場合は降ろして床に寝かせる
- 周囲の危険物(はさみ、硬いおもちゃ)を遠ざける
ステップ2: 無理に押さえつけない
- 暴れているときに力で抑えるとケガのリスクがある
- そばに付き添い、ケガをしないよう見守る
ステップ3: 優しく声をかける
- 「大丈夫だよ、パパ(ママ)がいるよ」と落ち着いた声で
- 大声で叫んだり、叱ったりしない
ステップ4: 時間を計る
- スマホのタイマーで開始時刻を記録
- 可能であれば動画を撮影(後で医師に見せるため)
ステップ5: 症状が治まったら水分補給
- 落ち着いたら経口補水液やお茶を少しずつ
ポイント
- 最優先は安全確保(窓の施錠、転落防止)
- 無理に押さえつけず、見守る
- 動画撮影しておくと受診時に役立つ
Q4.「どんなとき救急車を呼ぶべきですか?」
お父さん「様子を見ていいのか、救急に行くべきか、判断が難しいです」
以下に1つでも当てはまれば、すぐに救急受診してください
すぐに救急受診すべきサイン:
- 2異常行動が10分以上続く
- 4けいれんを伴っている(手足がガクガク震える)
- 6症状が治まった後も意識がはっきりしない
- 8呼吸が苦しそう(唇が紫色)
- 10嘔吐を繰り返す
- 12首が硬くなっている(前に曲げられない)
朝まで待って受診でOK:
- 数分で治まり、その後は普段通りに会話できる
- 水分が取れている
- 呼吸が穏やか
- もう一度眠りについた
迷ったときは#8000(こども医療でんわ相談)に電話してください。小児科の看護師さんが対応してくれます
ポイント
- 10分以上続く、けいれんを伴う、意識が戻らない場合は救急へ
- 数分で治まり普段通りに戻れば、翌朝の受診で大丈夫
- 迷ったら#8000に相談
Q5.「高熱のとき、異常行動を予防する方法はありますか?」
お父さん「解熱剤を使えば予防できますか?」
残念ながら、解熱剤で熱せん妄を完全に予防することはできません。ただし、いくつかの対策でリスクを下げることは可能です
家庭でできる対策:
- 2就寝環境の安全確保: 高熱の夜は窓を施錠、2段ベッドの上段で寝かせない
- 4子どもを一人にしない: 高熱の夜は親と同じ部屋で寝る
- 6適切な水分補給: 脱水は脳への影響を強める
- 8解熱剤の適切な使用: 完全な予防にはならないが、つらさを軽減する
- 10室温の調整: 暑すぎず寒すぎない環境(vol011参照)
最も重要なのは「安全な環境づくり」です。高熱の夜は、お子さんが急に動き出しても危険がないように、窓の施錠と転落防止を必ず行ってください
ポイント
- 解熱剤だけでは熱せん妄を完全には予防できない
- 高熱の夜は窓を施錠、一人にしないことが最重要
- 適切な水分補給と環境調整でリスクを下げる
まとめ
- 熱せん妄は高熱時に子どもの約4人に1人が経験する一時的な現象
- タミフルとの因果関係は統計的に認められておらず、インフルエンザそのものが原因と考えられている
- 多くは数分で治まり、後遺症はない
- 対応の基本は安全確保→無理に抑えない→記録→様子観察
- 10分以上続く、けいれんを伴う、意識が戻らない場合は救急へ
- 高熱の夜は窓の施錠と転落防止を忘れずに
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