愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.360
「もっとちゃんとしなきゃ」が母親を壊す、「十分に良い母親」のすすめ
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
厚労省の調査では、9割を超えるお母さんが育児に何らかのストレスを感じています [1]。離乳食は手作りで。テレビは見せない。部屋はいつもきれいに。公園は毎日。こうした「〜すべき」が積み重なって、息が詰まっていませんか。
インスタのあの人も、カメラの外では同じです
インスタのお母さんたちは手作り離乳食、テレビなし、笑顔。それに比べて自分は、と感じたことがあるなら、ひとつだけ。あれは「編集された現実」です。
散らかった部屋で、レトルトを食べさせて、疲れた顔でスマホを見ている。それが多くのお母さんのリアル。投稿されないだけです。
市販のベビーフードは栄養バランスが計算されていて衛生管理も厳格です。手作りと市販で発育に差が出るというデータはありません [2]。テレビも、米国小児科学会は18か月未満の子には動画チャットを除いて画面を見せないよう勧めていますが [3]、ワンオペで料理する30分テレビを見せたら発達が損なわれる、という強い根拠はありません。
日本の「母親プレッシャー」の構造には、科学的根拠が乏しい「三歳児神話」、家庭内の性別役割分業、SNSの比較文化、完璧主義の内面化が複合しています。研究ではSNSでの育児情報への曝露がお母さんのストレスや自己効力感の低下と関連していることが示されています [4]。
「この人の投稿を見ると落ち込む」アカウントはミュートしてください。あなたのメンタルヘルスより大切なフォローはありません。
「完璧でないこと」が、子どもを育てるんです
「good enough mother」って、ただの「手抜きのすすめ」と思われがちですが、違います。子どもが健全に育つためには、むしろ「完璧でないこと」が要る、という考え方です。
イギリスの小児科医で精神分析家、ドナルド・ウィニコットが1953年に提唱した概念です [5]。赤ちゃんのころは全面的に応える。成長に合わせて、少しずつ「完璧でない」対応を増やしていく。この「ちょっとした不完全さ」が子どもの自立心や回復力を育てる、という考え方です。
ニーズを先回りで全部満たしてしまうと、子どもは「自分で解決する力」を育てる機会を失います。少し待つ、思い通りにいかない。そこが子どもの心にとっては大事な余白になります。
命に関わること以外は、ほぼ全部手を抜いて大丈夫
では、どこまで手を抜いていいのか。答えはシンプルで、命に関わること以外はほぼ全部、手を抜いて大丈夫です。
抜いていいところ。離乳食は市販で十分。部屋が散らかっていても子は育ちます。テレビを30分見せて家事をしてもいい。公園も毎日でなくていい。絵本も毎晩でなくていい。服が汚れたまま1日過ごしても問題ありません。
抜いてはいけないところ。転落・誤飲・やけどなどの安全管理、予防接種や病気の受診、食事・睡眠・清潔の最低限の確保。ここだけは守ってください。

おかもん先生より
小児科医として1万人以上のお子さんを診てきましたが、「母親が完璧だったから健やかに育った子」は見たことがありません。「母親が自分を大切にしながら育てた子」は、たくさん見てきました。あなたは十分にやっています。
今号のまとめ
- 9割を超える母親が育児ストレスを感じている。「~すべき」が追い詰めている
- ウィニコットの「good enough mother」: 完璧でないことが子どもの成長に必要
- 市販の離乳食、テレビ、散らかった部屋。命に関わらないことは手を抜いてよい
- SNSのハイライトリールと自分を比べない
- 小児科医からのメッセージ: あなたは十分にやっています
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ご質問・ご感想
「手を抜けるようになって楽になりました」「こんな場面ではまだ罪悪感があります」など、体験談やご質問がございましたら、お気軽にお寄せください。
愛育病院 小児科 おかもん先生
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