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「ゆっくりさん」の発達を見守るために、知的障害(知的発達症)の基礎
Vol.103発達

「ゆっくりさん」の発達を見守るために、知的障害(知的発達症)の基礎

知的障害はIQだけでなく、適応行動の困難も含めて総合的に判断する

発達全年齢17
おかもん先生小児科専門医愛育病院 小児科

参考文献 18·Q&A 6問収録

プロフィール →

この記事のポイント

  • 知的障害はIQだけでなく、適応行動の困難も含めて総合的に判断する
  • 軽度〜最重度まで幅広く、軽度は早期に気づかれにくい
  • 早期療育で生活の質(QOL)は大きく向上する

愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.103

「ゆっくりさん」の発達を見守るために、知的障害(知的発達症)の基礎

今号のポイント

  1. 2
    知的障害はIQだけでなく、適応行動の困難も含めて総合的に判断する
  2. 4
    軽度〜最重度まで幅広く、軽度は早期に気づかれにくい
  3. 6
    早期療育で生活の質(QOL)は大きく向上する

こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。

発達障害シリーズの最終回となる今号では、知的障害(知的発達症: Intellectual Developmental Disorder / Intellectual Disability)についてお伝えします。

「うちの子、発達がゆっくりで……」「同じ月齢の子に比べてできないことが多い」、こうしたご相談を受けた時、私たち小児科医は知的障害の可能性も含めて評価を行います。知的障害は人口の約1〜3%に認められ [1]、決して稀な疾患ではありません。しかし、特に軽度の場合は幼児期に気づかれにくく、就学後に学業困難として顕在化することも少なくありません [2]。

正しい理解と早期の支援が、お子さんの可能性を大きく広げます。

Q1.「知的障害とは、どういう状態ですか?」

——知的障害というと"IQが低い"ということですか?

IQは一つの指標ですが、それだけでは知的障害は診断できません [3]。DSM-5-TRでは、知的障害(知的発達症)は以下の3つの条件すべてを満たす場合に診断されます。

DSM-5-TR 知的障害の診断基準 [3]:

基準内容
A. 知的機能の欠陥推理、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学習などの全般的精神機能の障害。臨床的評価および標準化された知能検査(IQ約70以下)で確認 [3]
B. 適応機能の欠陥日常生活における概念的・社会的・実用的スキルが同年齢の水準を満たさない [3]
C. 発症時期発達期(18歳以前)に発症 [3]

ポイントは、IQだけでなく"適応行動"も評価することです [3]。IQが70未満でも日常生活を自立して送れている場合は、必ずしも知的障害と診断しないこともあります。逆に、IQがボーダーライン(70〜85程度)でも適応行動に大きな困難がある場合は支援が必要です。

適応行動の3つの領域 [3]:

内容

概念的スキル
言語、読み書き、計算、推理、記憶
社会的スキル
対人関係、社会的判断、コミュニケーション
実用的スキル
身辺自立、日常生活動作、安全管理

具体例

概念的スキル
文字の読み書き、時計の理解、お金の計算
社会的スキル
友だちとの関わり、ルールの理解、空気を読む
実用的スキル
食事、着替え、トイレ、交通安全

知的障害の基本情報:

項目内容
有病率約1〜3% [1]
男女比男:女 = 約1.5:1 [1]
重症度別の割合軽度85%、中等度10%、重度3〜4%、最重度1〜2% [4]

ポイント

  • 知的障害はIQ+適応行動+発達期の発症の3条件で診断 [3]
  • IQだけでは判断しない。適応行動の評価が重要 [3]
  • 約1〜3%に認められ、軽度が85%を占める [1][4]

Q2.「重症度はどう分けられていますか?」

——"軽度""重度"と聞きますが、具体的にどう違うのですか?

DSM-5-TRでは、知的障害の重症度を4段階に分類しています [3]。重要なのは、IQの数値ではなく"適応機能のレベル"で重症度を決めることです。

知的障害の重症度分類:

重症度IQの目安概念的領域社会的領域実用的領域
軽度50〜70学齢期に学業困難が目立つ。読み書き・計算は可能だが遅い [3]コミュニケーション可能だが、社会的判断が未熟 [3]身辺自立は概ね可能。複雑な日常判断に支援が必要 [3]
中等度35〜50読み書き・計算は小学校低学年レベル。概念的理解に制限 [3]言語は簡単な会話レベル。友人関係は限られる [3]身辺自立に部分的な支援が必要。単純な仕事は可能 [3]
重度20〜35概念的スキルは限定的。数、時間、金銭の理解が困難 [3]言語は単語〜短文レベル。コミュニケーションに支援 [3]すべてのADLに支援が必要 [3]
最重度20未満概念的スキルは感覚運動レベル [3]非言語的コミュニケーションが中心 [3]すべての面で全面的な支援が必要 [3]

年齢別に見た発達の目安(軽度知的障害の場合):

定型発達

1歳
初語(ママ、パパ等)
2歳
2語文
3歳
3語文以上、ごっこ遊び
5歳
ひらがなの読み書き開始
6〜7歳
小学校の学習開始

軽度知的障害

1歳
初語が遅れることがある(1歳半〜2歳頃) [5]
2歳
単語数が少ない、2語文が遅い [5]
3歳
言葉の遅れ、簡単な指示の理解が難しい [5]
5歳
文字への関心が低い、色・数の概念が不完全 [5]
6〜7歳
学業困難が顕在化。学習障害との鑑別が重要 [2]

軽度知的障害は幼児期に気づかれにくいのが特徴です [2]。日常会話はできるし、身辺自立も大きな問題がないため、"ちょっとゆっくりさん"で済まされることが多いのです。しかし、小学校に入って学業が始まると困難が目立ってきます。

ポイント

  • 重症度はIQではなく適応機能のレベルで決める [3]
  • 軽度が85%を占め、幼児期には気づかれにくい [2][4]
  • 小学校入学後に学業困難として顕在化することが多い [2]
  • 重症度に関わらず、適切な支援で生活の質は向上する

Q3.「知的障害の原因は何ですか?」

——なぜ知的障害が起こるのですか?原因はわかっているのですか?

知的障害の原因は多岐にわたります [6]。大きく分けると、遺伝性(出生前)・周産期・出生後の3つの時期に分類できます。ただし、約30〜50%は原因不明です [6]

知的障害の主な原因:

原因

出生前(遺伝性)
染色体異常
単一遺伝子疾患
先天性感染症
母体要因
周産期
新生児合併症
感染
出生後
外傷
感染
環境要因
原因不明

具体例

出生前(遺伝性)
ダウン症候群(21トリソミー) [7]、脆弱X症候群 [8]、その他の染色体微細欠失
フェニルケトン尿症、結節性硬化症 [6]
TORCH感染症(風疹、CMV、トキソプラズマ等) [6]
胎児性アルコール症候群、薬物曝露 [9]
周産期
低酸素性虚血性脳症、早産・極低出生体重児 [6]
新生児髄膜炎 [6]
出生後
頭部外傷(虐待を含む) [6]
脳炎、髄膜炎 [6]
重度の栄養不良、鉛中毒、社会的剥奪 [6]
原因不明
全体の約30〜50% [6]

ダウン症候群(21トリソミー)について:

知的障害の原因として最もよく知られているのはダウン症候群です [7]。21番染色体が3本ある(トリソミー)ことで生じる染色体異常で、約700〜1,000出生に1人の割合で発生します [7]

項目内容
頻度約700〜1,000出生に1人 [7]
知的障害の程度軽度〜中等度が多い(IQ 40〜70程度) [7]
合併症先天性心疾患(約50%)、甲状腺機能低下症、難聴、眼科疾患 [7]
平均寿命約60歳(医療の進歩で大幅に延伸) [7]
早期療育の効果運動・言語・社会性の発達を促進 [10]

ダウン症候群のお子さんは、早期療育によって大きく発達が促進されることがわかっています [10]。特に、言語発達と社会性の獲得において、早期からの介入が効果的です。多くのお子さんが通常学級やインクルーシブ教育の中で学び、社会参加しています。

ポイント

  • 原因は遺伝性・周産期・出生後に分けられるが、30〜50%は原因不明 [6]
  • ダウン症候群は最も頻度の高い遺伝性の原因 [7]
  • 胎児性アルコール症候群は予防可能な原因として重要 [9]
  • 原因にかかわらず、早期療育が重要

Q4.「知的障害はどうやって気づけばいいですか?」

——うちの子の発達が遅い気がしますが、知的障害かどうかはどう判断するのですか?

知的障害の評価には、知能検査と適応行動の評価を組み合わせます [3]。しかし、その前に"気づき"が最も重要です。以下のような場合は、発達の評価をお勧めします。

気づきのポイント(年齢別):

年齢気になるサイン
0〜1歳運動発達の遅れ(首すわり、お座り、はいはい)、反応が乏しい [5]
1〜2歳言葉の遅れ(有意語なし)、簡単な指示の理解が困難 [5]
2〜3歳2語文が出ない、ごっこ遊びが見られない、日常動作(スプーン、コップ)が遅い [5]
3〜5歳色・数・形の概念が入りにくい、集団活動についていけない [2]
就学後学習全般の困難、読み書き計算が著しく遅い [2]

使用される主な検査:

対象年齢

田中ビネー知能検査V
2歳〜成人
WISC-V
6〜16歳
WPPSI-IV
2歳6ヶ月〜7歳7ヶ月
K-ABC II
2歳6ヶ月〜18歳
新版K式発達検査
0歳〜成人
Vineland-3適応行動尺度
0歳〜92歳

評価内容

田中ビネー知能検査V
全般的知能(IQ)。日本で最も広く使用 [11]
WISC-V
5つの指標で認知機能を詳細に評価 [12]
WPPSI-IV
就学前の知能評価 [12]
K-ABC II
認知処理と学力の評価 [11]
新版K式発達検査
姿勢・運動、認知・適応、言語・社会の3領域 [11]
Vineland-3適応行動尺度
適応行動の標準化された評価 [13]

乳幼児健診(特に1歳半健診、3歳児健診)は、知的障害の早期発見の重要な機会です [14]。健診で"要経過観察"や"要精密検査"となった場合は、必ず指示に従って再評価を受けてください。

知能検査は概ね5〜6歳以降でないと信頼性の高いIQが出ません [11]。それ以前は発達検査(新版K式発達検査等)で発達指数(DQ)を算出し、発達の程度を評価します。

ポイント

  • 運動発達の遅れ、言葉の遅れ、日常動作の遅れが主な気づきのきっかけ [5]
  • 乳幼児健診は早期発見の重要な機会 [14]
  • 知能検査(WISC-V等)は5〜6歳以降が信頼性が高い [11]
  • Vineland-3で適応行動を標準化して評価 [13]

Q5.「知的障害と診断されたら、将来はどうなりますか?」

——もし知的障害と診断されたら、将来この子は自立できるのでしょうか……

そのご心配はよくわかります。結論から言うと、重症度と支援の質によって大きく異なりますが、特に軽度知的障害では、適切な支援があれば自立的な生活を送れる方が多いです [15]

重症度別の生活の目安:

重症度教育就労生活の自立
軽度通常学級(支援付き)〜特別支援学級 [15]一般就労〜障害者雇用 [15]概ね自立可能。複雑な判断に支援 [3]
中等度特別支援学級〜特別支援学校 [15]福祉的就労〜障害者雇用 [15]日常生活に部分的支援が必要 [3]
重度特別支援学校 [15]福祉的就労(生活介護) [15]すべてのADLに支援が必要 [3]
最重度特別支援学校 [15]生活介護 [15]全面的な支援が必要 [3]

重要なのは、知的障害があっても発達は止まらないということです [16]。定型発達と比べてペースはゆっくりですが、生涯にわたって学び、成長し続けます。早期療育と適切な教育的支援があれば、お子さんの持っている力を最大限に引き出すことができます [16]

早期療育の効果:

介入内容効果
言語療法言語理解・表出の促進、コミュニケーション能力の向上 [16]
作業療法手先の巧緻性、身辺自立(食事、着替え等)の向上 [16]
理学療法運動発達の促進(特に乳幼児期) [16]
療育(児童発達支援)集団活動、社会性、認知機能の発達促進 [16]
ペアレントトレーニング親の養育スキル向上、ストレス軽減 [17]

"できないこと"に注目するのではなく、"できること"を伸ばす視点が大切です [16]。お子さんの強み(例えば、優しい性格、音楽への感受性、手先の器用さ等)を見つけて伸ばしていくことが、自尊心の維持と社会参加につながります。

ポイント

  • 軽度知的障害では自立的な生活が可能なケースが多い [15]
  • 知的障害があっても発達は止まらない。生涯学び続ける [16]
  • 早期療育で言語・運動・社会性の発達が促進される [16]
  • 「できること」を伸ばす視点が重要

Q6.「利用できる支援制度を教えてください」

——どんな支援が受けられるのか教えてください

知的障害のお子さんが利用できる支援は、年齢や重症度によってさまざまです [18]。港区でも多くのサービスが利用可能です。

年齢別の主な支援制度:

支援

0〜6歳
児童発達支援
医療型児童発達支援
保育所等訪問支援
6〜18歳
放課後等デイサービス
特別支援教育
全年齢
療育手帳(愛の手帳)
特別児童扶養手当
障害福祉サービス

内容

0〜6歳
未就学児の療育。個別・集団プログラム [18]
医療的ケアが必要な場合の療育 [18]
保育園・幼稚園に専門スタッフが訪問して助言 [18]
6〜18歳
放課後・休日の療育と居場所 [18]
通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校 [15]
全年齢
各種サービスの利用に必要 [18]
一定の障害がある20歳未満の児童を養育する方に支給 [18]
居宅介護、短期入所(ショートステイ)等 [18]

療育手帳(東京都では"愛の手帳")は、さまざまなサービスを利用するための基本的な証明書です [18]。児童相談所で判定を受けて取得します。取得をためらう保護者の方もいらっしゃいますが、手帳は"支援を受けるためのパスポート"です。お子さんに必要な支援を確実に届けるために、活用をお勧めします。

港区の相談窓口:

相談先内容
港区子ども家庭支援センター育児全般の相談、発達の心配
港区立児童発達支援センター療育・発達支援の専門施設
東京都児童相談センター療育手帳の判定、発達評価
港区障害者福祉課各種福祉サービスの申請
かかりつけ小児科医療面の相談、専門機関への紹介

保護者の方へのメッセージ:

最後に、お伝えしたいことがあります。知的障害のお子さんの子育ては、"大変なこと"だけではありません [17]。ゆっくりだからこそ、一つ一つの成長を喜べる。"あたりまえ"と思われがちなことが、大きな達成になる。お子さんのペースで、お子さんらしい人生を歩んでいくことが最も大切です [17]。そして、保護者の方自身のメンタルヘルスも大切にしてください。一人で抱え込まず、私たち専門家や支援機関を頼ってください。

ポイント

  • 療育手帳(愛の手帳)は支援のパスポート。取得を検討してほしい [18]
  • 児童発達支援、放課後デイ、特別支援教育など多くの制度がある [18]
  • 保護者自身のメンタルヘルスも大切に [17]
  • お子さんのペースで、お子さんらしい成長を見守る

今号のまとめ

  • 知的障害はIQ+適応行動の困難+発達期の発症で診断する。IQだけでは判断しない
  • 重症度は軽度〜最重度の4段階。軽度が85%を占める
  • 原因は遺伝性・周産期・出生後と多様で、約30〜50%は原因不明
  • 早期療育で発達は促進される。知的障害があっても発達は止まらない
  • 軽度では自立した生活が可能なケースが多い。適切な支援が鍵
  • 療育手帳は支援のパスポート。利用可能な制度を積極的に活用する

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