愛育病院 小児科おかもん だより Vol.46
子どもの鉄欠乏性貧血、成長と発達に影響する「隠れた栄養問題」
今号のポイント
- 2乳幼児の鉄欠乏性貧血は発達・行動に長期的な影響を及ぼす可能性がある
- 4生後6ヶ月〜2歳が最もリスクが高い時期
- 6早期発見・早期治療で予後は良好
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「うちの子、なんだか元気がなくて、顔色も悪い気がします……」、こんな相談をいただいたとき、私たちがまず考えるのが 鉄欠乏性貧血 です。鉄欠乏性貧血は、乳幼児の最も多い貧血の原因であり、発達・行動・学習能力に影響する可能性があるため、早期発見が重要です [1]。
今回は、子どもの鉄欠乏性貧血の症状・診断・治療・予防 についてお伝えします。
Q1.「鉄欠乏性貧血って、どんな病気ですか?」
——健診で「貧血の可能性がある」と言われました。鉄欠乏性貧血とは何ですか?
鉄欠乏性貧血は、体内の鉄が不足することで、赤血球の中のヘモグロビン(酸素を運ぶたんぱく質)が十分に作れなくなる状態です [1]
鉄欠乏性貧血の基本情報:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原因 | 鉄の摂取不足、吸収不良、成長による需要増加、出血 [2] |
| 好発年齢 | 生後6ヶ月〜2歳(急速な成長期) [3] |
| 頻度 | 日本の乳幼児の約7〜10%(平成24年国民健康・栄養調査。最新調査では数値が変動する可能性) [4] |
| 重要な点 | 脳の発達・認知機能・行動に影響する可能性 [5] |
鉄は、脳の神経発達に必須の栄養素です [5]。特に生後6ヶ月〜2歳は、脳が最も急速に発達する時期であり、この時期の鉄欠乏は長期的な発達への影響が懸念されます [5]
鉄欠乏のリスクが高い子ども:
- 母乳栄養のみで鉄補給がない乳児(生後6ヶ月以降) [6]
- 低出生体重児・早産児 [7]
- 牛乳の過剰摂取(1日500mL以上) [8]
- 偏食(肉・魚を食べない) [9]
- 消化管出血の既往
ポイント
- 鉄欠乏性貧血は 乳幼児の最も多い貧血 [1]
- 生後6ヶ月〜2歳が最もリスクが高い [3]
- 脳の発達・認知機能に影響する可能性がある [5]
- 母乳栄養のみ、牛乳過剰摂取、偏食がリスク因子 [6][8][9]
Q2.「鉄欠乏性貧血の症状を教えてください」
——どんな症状が出たら、鉄欠乏性貧血を疑えばいいですか?
鉄欠乏性貧血の症状は、ゆっくり進行するため気づきにくいことが特徴です [10]。軽度の貧血では無症状のこともあります
鉄欠乏性貧血の症状:
貧血による全身症状
- 顔色が悪い(蒼白)
- 疲れやすい、元気がない
- 機嫌が悪い、ぐずりやすい
- 運動能力の低下
- 食欲不振
鉄欠乏に特有の症状
- 爪が反り返る(スプーン状爪) [11]
- 舌炎(舌が赤くなる、痛がる)
- 異食症(氷・土・紙などを食べたがる) [12]
- 口角炎(口の端が切れる)
発達・行動への影響
- 発達の遅れ(言語・運動発達)
- 注意力の低下
- 学習能力の低下 [5]
- 感染症にかかりやすい [13]
重要なのは、症状が出てから対応するのでは遅いということです [5]。生後6ヶ月〜2歳の間は、症状がなくても予防的に鉄を摂取することが推奨されています [6]
ポイント
- 症状は ゆっくり進行し、気づきにくい [10]
- 顔色不良、疲れやすい、機嫌が悪いが典型的
- 爪の変形、異食症は鉄欠乏に特徴的 [11][12]
- 発達・行動・学習能力への影響がある [5]
Q3.「鉄欠乏性貧血の診断はどうやってするんですか?」
——貧血かどうかは、どうやって調べるんですか?
鉄欠乏性貧血の診断は、血液検査で行います [14]
診断に必要な検査:
① ヘモグロビン値(Hb)
| 年齢 | 貧血の基準(Hb値) |
|---|---|
| 生後6ヶ月〜5歳 | 11.0 g/dL未満 [14] |
| 6〜11歳 | 11.5 g/dL未満 |
| 12〜14歳 | 12.0 g/dL未満 |
② 平均赤血球容積(MCV)
- 鉄欠乏性貧血では小球性(MCVが低い)になる [14]
- 正常値: 70〜90 fL(年齢により異なる)
③ 血清鉄・フェリチン
- 血清鉄: 低下(30 μg/dL未満)
- フェリチン: 低下(12 ng/mL未満で鉄欠乏) [14]
- フェリチンは体内の鉄貯蔵量を反映する最も重要な指標
診断のポイントは、貧血があること(Hb低下)+ 鉄欠乏があること(フェリチン低下)の両方を確認することです [14]。また、消化管出血や他の病気が隠れていないかもチェックします
鑑別診断(他の貧血との区別):
- サラセミア(地中海貧血): MCVは低いが鉄は正常
- 慢性疾患による貧血: フェリチンは正常〜高値
- 溶血性貧血: ビリルビン上昇、網赤血球増加
ポイント
- 診断は 血液検査で行う [14]
- 生後6ヶ月〜5歳: Hb 11.0 g/dL未満で貧血 [14]
- フェリチン 12 ng/mL未満で鉄欠乏 [14]
- 他の貧血との鑑別が重要
Q4.「鉄欠乏性貧血の治療はどうするんですか?」
——もし鉄欠乏性貧血と診断されたら、どんな治療をするんですか?
治療の基本は、鉄剤の内服です [15]。多くの場合、2〜3ヶ月の治療で改善します
鉄欠乏性貧血の治療:
① 鉄剤の内服(第一選択)
用量:
- 体重1kgあたり3〜6mg/日(元素鉄として) [15]
- 1日1〜2回に分けて内服
- 例: 体重10kgの子ども → 鉄剤30〜60mg/日
よく使われる鉄剤:
- インクレミンシロップ(小児用)
- フェロミア顆粒・錠剤
- フェロ・グラデュメット錠
鉄剤を飲むときのポイントが5つあります
鉄剤内服の5つのポイント
- 2空腹時に飲む: 食後より吸収が良い [15]
- 4ビタミンCと一緒に: 鉄の吸収を促進(オレンジジュースなど)
- 6牛乳・お茶とは避ける: カルシウム・タンニンが吸収を阻害 [16]
- 8便が黒くなる: 正常な反応。心配不要
- 10歯が黒くならないように: シロップは喉の奥に流し込み、飲んだ後は口をすすぐ
治療期間は通常2〜3ヶ月です [15]。ヘモグロビン値が正常化しても、体内の鉄貯蔵を回復させるため、さらに2〜3ヶ月継続することが推奨されています [15]
② 食事指導
鉄を多く含む食品を積極的に摂取:
ヘム鉄(吸収率15〜25%):
- 赤身肉(牛肉、豚肉)
- レバー(鶏・豚・牛)
- 魚(かつお、まぐろ、いわし)
非ヘム鉄(吸収率2〜5%):
- ほうれん草、小松菜
- 大豆製品(納豆、豆腐)
- ひじき、海苔
ヘム鉄(動物性食品)のほうが吸収率が高いので、離乳食では肉・魚を積極的に取り入れることが大切です [6]
ポイント
- 治療は 鉄剤の内服(3〜6mg/kg/日) [15]
- 2〜3ヶ月で改善、その後も2〜3ヶ月継続 [15]
- 空腹時、ビタミンCと一緒に飲むと効果的 [15][16]
- 食事では ヘム鉄(肉・魚)を積極的に [6]
Q5.「鉄欠乏性貧血を予防するにはどうすればいいですか?」
——貧血にならないように、予防することはできますか?
はい、適切な食事と鉄補給で予防できます [6]。特に生後6ヶ月〜2歳は予防が重要です
年齢別・鉄欠乏予防のポイント:
生後6ヶ月以降(離乳食期)
母乳中の鉄は少ないため、生後6ヶ月から鉄補給が必要 [6]
対策:
- 離乳食で鉄を含む食品を積極的に(肉・魚・レバー)
- 鉄強化のフォローアップミルクの活用
- 母乳栄養児: 鉄剤のサプリメント(1mg/kg/日)の検討 [6]
1〜2歳(幼児食期)
牛乳の飲み過ぎに注意 [8]
- 牛乳は鉄含有量が少ない(100mLあたり0.02mg)
- 牛乳の過剰摂取(1日500mL以上)は鉄欠乏のリスク [8]
- 牛乳は1日300〜400mLまでに制限
対策:
- 肉・魚を毎日1〜2回は食べる
- 偏食を避ける工夫(小さく刻む、ハンバーグなど)
- おやつもビスケットより鉄強化ビスケットを
3歳以降
好き嫌いが激しい子は要注意 [9]
対策:
- バランスの良い食事(肉・魚・野菜・豆類)
- 朝食を抜かない(朝食欠食は鉄欠乏のリスク)
- 成長期(思春期)は鉄の需要が増えるため注意
特に、母乳栄養のみで生後6ヶ月を過ぎたお子さんは、鉄欠乏のリスクが高いです [6]。離乳食で鉄を含む食品を積極的に取り入れることが大切です。また、牛乳好きなお子さんは「牛乳でお腹いっぱいになって食事が食べられない」という状況に要注意です [8]
健診での貧血チェック:
日本では、1歳6ヶ月健診で貧血のスクリーニング(指先採血)が行われる自治体が多いです [17]。健診をきちんと受けて、早期発見につなげましょう。
ポイント
- 生後6ヶ月から鉄補給が必要 [6]
- 母乳栄養児は 離乳食で肉・魚を積極的に [6]
- 牛乳は1日300〜400mLまで [8]
- 1歳6ヶ月健診で貧血チェック [17]
まとめ
- 鉄欠乏性貧血は 乳幼児の最も多い貧血で、発達・行動に影響する可能性がある
- 生後6ヶ月〜2歳が最もリスクが高い時期
- 症状は 顔色不良、疲れやすい、機嫌が悪いなど
- 診断は 血液検査(Hb、フェリチン)で行う
- 治療は 鉄剤の内服(2〜3ヶ月)で改善
- 予防には 離乳食で肉・魚を積極的に、牛乳は1日300〜400mLまで
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