愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.122
喃語から三語文へ、月齢別・言葉の発達ロードマップ
今号のポイント
- 2言葉の発達は「理解」が先、「表出(話す)」が後。理解語彙のほうが予後を反映する
- 41歳半で有意語なし、2歳で二語文なしが「相談の目安」。ただしLate Talkerの約80%は追いつく
- 6テレビ・動画そのものが悪いのではなく、それによって親子の対話が減ることが問題
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
Vol.73「うちの子、言葉が遅い?」ではLate Talker(遅咲きタイプ)のお話をしました。今回はもう少し広い視点から、月齢ごとの言葉の発達の全体像を地図のようにお見せします。今どのあたりかがわかると、だいぶ安心できるはずです。
Q1.「月齢ごとの言葉の発達の目安を教えてください」
——言葉の発達って、どういう順番で進むのですか?全体像を知りたいです
言葉の発達は、声を出す段階、意味のある言葉、そして文を作る段階と、順に進んでいきます。まずは一覧で見てみましょう [1][2]。
月齢別 言語発達のロードマップ:
| 月齢 | 表出言語(話す力) | 理解言語(わかる力) | 補足 |
|---|---|---|---|
| 0〜2ヶ月 | 泣き声、クーイング(「あー」「うー」) | 声のトーンに反応 | 母音中心の発声 [1] |
| 3〜5ヶ月 | 喃語の始まり(「あうー」「ばー」) | 自分の名前に反応し始める | 声の抑揚が豊かに [2] |
| 6〜8ヶ月 | 規準喃語(「ばばば」「だだだ」「まままま」) | 「ダメ」のトーンに反応 | 子音+母音の繰り返し [1] |
| 9〜11ヶ月 | 多様な喃語、身振り(バイバイ)、指差し | 「ちょうだい」「バイバイ」がわかる | 言葉の前段階として非常に重要 [3] |
| 10〜15ヶ月 | 初語(「ママ」「ワンワン」「ブーブー」) | 簡単な指示がわかる(「持ってきて」) | 中央値は約12ヶ月 [1] |
| 15〜18ヶ月 | 語彙数 10〜50語 | 体の部位を指差せる | 語彙がゆっくり増える時期 [2] |
| 18〜24ヶ月 | 語彙爆発。50語を超えると急増 | 二段階の指示がわかる | 二語文の出現(「ワンワン いた」)[1] |
| 2〜3歳 | 三語文以上(「ママ おちゃ ちょうだい」) | 簡単な会話を理解 | 約200〜1,000語の語彙 [4] |
| 3〜4歳 | 文法が整ってくる。「なぜ?」の質問期 | 物語の筋を理解 | 会話が成立する [4] |
「ここで見ていただきたいのは、各段階の年齢の幅が広いことです [1]。初語は"10〜15ヶ月"となっていますが、中央値が約12ヶ月という意味で、15ヶ月でまだ出ていない子もいます。言葉の発達は、子どもの発達領域の中で一番個人差が大きいんです [2]。」
ポイント
- 言葉の発達は 段階的に進む(クーイング → 喃語 → 初語 → 二語文 → 三語文)[1]
- 各段階の 年齢の幅は非常に広い [2]
- 全体像を知ることで「今どの段階か」がわかる
Q2.「理解言語と表出言語の違いを教えてください」
——うちの子は1歳半ですが、まだ"ママ"しか言いません。でも、こちらが言っていることはわかっているようです。これはどう評価すればいいですか?
とても大事な観察です。「話す力」と「わかる力」は別の能力で、育つスピードも違います [1][5]。
理解言語 vs 表出言語:
理解言語(わかる力)
- 定義
- 聞いてわかる言葉
- 発達の順序
- 先に発達する
- 1歳時点の目安
- 50〜100語以上理解
- 個人差
- やや小さい
- 臨床的意義
- 予後の指標としてより信頼性が高い [5]
表出言語(話す力)
- 定義
- 自分から発する言葉
- 発達の順序
- 後から発達する [1]
- 1歳時点の目安
- 数語(0〜10語)[1]
- 個人差
- 非常に大きい
- 臨床的意義
- 単独では発達の指標にしにくい
理解言語がしっかりあるサイン:
- 「〇〇持ってきて」と言うと正しい物を持ってくる
- 「ゴミ箱に捨ててきて」ができる
- 「パパはどこ?」と聞くとパパのほうを見る
- 絵本の絵を指差して「ワンワンはどれ?」と聞くと指差す
- 「ダメ」「バイバイ」に適切に反応する
お子さん、わかる力はしっかり育っていますね。これはとても良いサインです [5]。話す力はわかる力の後を追いかけるように育ちますから、ある日急に"語彙爆発"が来る可能性が高いです [1]
「逆に、わかる言葉もほとんどない場合は、話さないだけのケースよりも注意が必要です [5]。聴こえの問題や発達の問題が隠れていることがあるので、早めに相談してください。」
ポイント
- 理解が先、表出が後。これが正常な発達の順序 [1]
- 理解言語がしっかりあれば、表出は後から追いつく可能性が高い [5]
- 「話さない」より「理解していない」のほうが臨床的には注意 [5]
Q3.「"言葉が遅い"の定義を教えてください。いつ心配すべきですか?」
——周りの子と比べてしまって不安です。どこからが"遅い"なんですか?
周りと比べて不安になるお気持ち、本当によくわかります。医学的に"言葉が遅い"と見る目安をまとめておきますね [2][6]。
「言葉が遅い」の定義:
心配の目安
- 12ヶ月
- 喃語がない or 非常に少ない
- 12ヶ月
- 指差しをまったくしない
- 16ヶ月
- 有意語がゼロ
- 18ヶ月(1歳半)
- 有意語がない
- 18ヶ月
- 理解語彙もほとんどない
- 24ヶ月(2歳)
- 産出語彙が50語未満
- 24ヶ月
- 二語文がまったく出ない
- 3歳
- 他人に言葉が通じない
補足
- 12ヶ月
- 発声の発達の遅れ [2]
- 12ヶ月
- 共同注意の発達。Vol.123参照 [3]
- 16ヶ月
- 表出言語の遅れ [6]
- 18ヶ月(1歳半)
- 一般的な「遅い」の基準 [2]
- 18ヶ月
- Late Talkerよりも注意が必要 [5]
- 24ヶ月(2歳)
- Late Talkerの定義 [6]
- 24ヶ月
- Late Talkerの定義 [6]
- 3歳
- 構音の問題も含めて評価 [4]
Late Talker(遅咲きタイプ)の定義と予後 [6][7]:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 18〜24ヶ月で産出語彙50語未満 or 二語文なし。ただし理解・社会性・運動は年齢相応 |
| 頻度 | 同年齢の約10〜15% [6] |
| 3歳時点 | 約50%が正常範囲に追いつく [7] |
| 4〜5歳時点 | 約70〜80%が正常範囲に追いつく [7] |
| 学齢期 | 多くが日常生活に支障なし。一部は読み書きに弱さが残る可能性 [7] |
「つまり、Late Talkerの多くは自然に追いつきます [7]。ただ残りの約20%には言語発達障害や自閉スペクトラム症などが隠れていることがあるので、早めのフォローは大事です。」
Late Talkerの中で特に注意すべきサイン [6][8]:
| サイン | なぜ注意か |
|---|---|
| 理解語彙も少ない | 言語全般の遅れの可能性 [5] |
| 指差しをしない | 共同注意の欠如。ASDの早期サイン [8] |
| 模倣をしない | 社会性・学習の基盤が弱い可能性 [8] |
| 他者への関心が薄い | 社会性の発達の遅れ [8] |
| 以前あった言葉が消えた(退行) | 速やかな評価が必要 [8] |
ポイント
- 1歳半で有意語なし、2歳で二語文なしが「相談の目安」[2][6]
- Late Talkerの 約80%は4〜5歳で追いつく [7]
- 理解も遅い、指差しがない、退行がある場合は早めに相談 [5][8]
Q4.「言葉の発達を促す関わり方を教えてください」
——家庭でできることがあれば教えてください
特別なトレーニングは要らないんです。日常の中での、ごく自然なやりとりが一番効きます [9][10]。
効果的な関わり方:
やり方
- 実況中継
- 子どもが見ているもの・やっていることを言葉にする(「赤いボールだね」「積み木、上手に積んだね」)
- 拡張
- 子どもの発語を広げて返す。「ワンワン」→「大きいワンワンだね」
- 応答的関わり
- 子どもの発声や喃語に応じる。「あーあー」→「そうだね〜」
- 対話的読み聞かせ
- 読みながら「これは何?」「どこにいる?」と問いかける
- 選択肢を提示
- 「りんごとバナナ、どっちがいい?」
- 歌・手遊び
- 繰り返しとリズムが言語学習を促進
エビデンス
- 実況中継
- 語りかけの量と質が語彙発達を予測する [9]
- 拡張
- 文法獲得を促進する [10]
- 応答的関わり
- 応答性が高い親の子は語彙発達が早い [9]
- 対話的読み聞かせ
- 語彙と読解力を促進 [11]
- 選択肢を提示
- 言葉を使う動機づけになる
- 歌・手遊び
- 音韻認識の発達 [10]
避けたほうがよい関わり方:
| 避けたい行動 | 理由 |
|---|---|
| 「言ってごらん」と言わせようとする | プレッシャーになり逆効果 [10] |
| 間違いを訂正する | 「ブーブーじゃないよ、くるまだよ」は自信を失わせる |
| 先回りして全部やってあげる | 言葉を使う必要がなくなる |
| 赤ちゃん言葉を長期間使い続ける | 2歳以降は徐々に正しいモデルを示す [10] |
「特に大事なのは、子どもの声や行動に"応答する"こと [9]。Tamis-LeMonda et al.(2001)の研究では、お母さんの応答性が高いほど、初語・語彙爆発・二語文の出現が早いと報告されています [9]。一方通行の語りかけより、子どもの関心に合わせた双方向のやりとりが効くんです。」
ポイント
- 実況中継、拡張、応答的関わりが効果的 [9][10]
- 「言ってごらん」は逆効果。自然な文脈でモデルを示す [10]
- 子どもの関心に合わせた双方向のやりとりが最も重要 [9]
Q5.「テレビや動画は言葉の発達に悪影響がありますか?」
——テレビをつけっぱなしにしていることが多いんですが、やめたほうがいいですか?
テレビそのものが悪者というわけではないんです。問題は、テレビがついているぶん親子の対話が減ってしまうことです [12][13]。
テレビ・動画と言語発達のエビデンス:
| 研究 | 結果 |
|---|---|
| Christakis et al. (2009) [12] | BGテレビがついている環境では、大人の発話量が有意に減少 |
| Zimmerman et al. (2007) [13] | 2歳未満の乳幼児向けDVD視聴は語彙スコアの低下と関連 |
| Roseberry et al. (2014) [14] | 生のやりとり(ライブ)ではビデオよりも言語学習効果が高い |
| AAP (2016) [15] | 18ヶ月未満はビデオチャット以外のスクリーン使用を避けることを推奨 |
スクリーンタイムの考え方:
AAP推奨 [15]
- 18ヶ月未満
- ビデオチャット以外は避ける
- 18〜24ヶ月
- 質の高い番組を親と一緒に
- 2〜5歳
- 1日1時間以内
ポイント
- 18ヶ月未満
- 一方通行のメディアからの学習効果は限定的
- 18〜24ヶ月
- 共視聴が鍵。一緒に見て話しかける
- 2〜5歳
- 質の高い教育番組を選ぶ
大切なのは以下の3点です。
- 2BGテレビをオフにする: テレビがついていると、親の発話量が減り、子どもの注意も分散します [12]
- 4見る時は一緒に見る(共視聴): 「ワンワンがいるね」「何してるかな?」と話しかけながら見る [14]
- 6生のやりとりの時間を確保する: スクリーンに奪われる時間の分だけ、親子の対話時間を守る [15]
「"テレビを一切見せてはいけない"と思い詰める必要はありません。家事の間に少し頼るのは、どのご家庭でもあります。罪悪感を持つ必要はなく、バランスが大切です。」
ポイント
- 問題はテレビ自体ではなく、親子の対話が減ること [12]
- BGテレビをオフにするだけで親の発話量が増える [12]
- 見る時は 一緒に見て話しかける(共視聴) [14]
- 18ヶ月未満はスクリーン最小限 がAAP推奨 [15]
今号のまとめ
- 言葉の発達は段階的に進み、個人差が最も大きい領域です
- 「理解」が先、「話す」が後。理解語彙がしっかりあれば安心材料です
- 1歳半で有意語なし、2歳で二語文なしが「相談の目安」
- Late Talkerの約80%は4〜5歳までに追いつきます
- 家庭では実況中継、応答的関わり、対話的読み聞かせが効果的です
- テレビはBGをオフにし、見る時は一緒に。対話の時間を守りましょう
あわせて読みたい
- Vol.73「うちの子、言葉が遅い?」
- Vol.123「指さし・共同注意の重要性」
- Vol.65「スマホとスクリーンタイム」
- Vol.33「逆さバイバイは大丈夫?」
ご質問・ご感想
「言葉の発達表を見て安心しました」「テレビの付き合い方を見直します」など、ご感想やご質問がございましたら、お気軽にお寄せください。
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