愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.469
親のスマホ使用と乳幼児の発達、エコチル調査が示した現実
「子どもを見ながらスマホを見るくらい、大丈夫ですよね?」。この問いに、少し厳しめの答えが出てしまいました。
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
日本の大規模コホート「エコチル調査」のデータを使った論文が、Scientific Reports 2025年に掲載されました [1]。子どもの発達に影響するのは、子どものスクリーンタイムだけでなく、親のスマホ使用時間でもある、という結果です。今回は、0〜3歳のお子さんをお持ちのご家庭に向けてお伝えします。
Q1.「エコチル調査って何ですか?」
——ニュースで名前は聞きます。どういう調査ですか?
環境省主導で、2011〜2014年に全国15センターから10万組の母子をリクルートし、子が13歳になるまで追跡する大規模出生コホートです
この研究では、サブコホート5%に対して小児科医診察と心理発達評価を追加実施しています。今回の解析対象は、全データが揃った3,786組の母子ペアでした [1]。
- 曝露: 母親の「子と一緒にいる時」のデジタルメディア(PC・携帯・タブレット・ビデオゲーム)使用時間
- アウトカム: 2歳時の新版K式発達検査2001(KSPD)
KSPDは認定検査者が対面で実施する客観的な発達検査で、Bayley-IIIや田中ビネー知能検査と相関が確立されています [1]。自己申告ではなく、専門家の対面評価で発達を見たという点が、この研究の強みです。
Q2.「どんな結果だったんですか?」
——結論から教えてください
母親が子と一緒にいる時に1日1時間以上デジタルメディアを使用すると、2歳児の言語-社会発達指数(L-S DQ)が低下していました
重回帰分析の結果(「使用なし」群を基準)[1]。
| 使用時間 | アウトカム | 効果量 B(95% CI) | p |
|---|---|---|---|
| 1〜2時間 | L-S DQ | −3.07(−4.81〜−1.33) | p < .001 |
| 2時間以上 | L-S DQ | −5.24(−7.76〜−2.73) | p < .001 |
| 2時間以上 | Total DQ | −2.07(−3.86〜−0.28) | .02 |
用量反応関係、つまり使用時間が長いほど影響が大きいという関係が見えています
姿勢-運動(P-M)や認知-適応(C-A)では有意な関連がなく、影響が出たのは言語-社会領域でした [1]。ここが重要で、メカニズムと一致します。
Q3.「テクノフェレンスって何ですか?」
——論文に出ていた言葉、聞き慣れません
『テクノフェレンス(technoference)』は、技術機器による人間関係や共有時間の中断を指します。Technology + Interferenceの造語です
論文では、母親のスマホ使用が子との相互作用を中断することで、以下が阻害されると説明されています [1]。
- 親の感受性と応答性の低下
- 語彙学習に必要な「時間的近接性(contiguity)」と「文脈的関連性(contingency)」の喪失
- ターンテイキング(会話の順番交代)の断絶
言語発達の鍵は、子が発した声に親が即座に・文脈に合った形で応じること、とされています [1]。スマホを見ている10秒の間に、この連鎖は切れてしまいます。
先行研究では、スウェーデンの2歳児の親の75%が遊びの時間にスマホを「少なくとも時々」使用し、米国では89%の親が子との相互作用中に1回以上のテクノフェレンスを報告しています [1]。これは日本の親だけの話ではありません。
Q4.「1時間使ったら即ダメですか?」
——現実的に、全く使わないのは無理です
研究の結論も『2歳児と一緒にいる時は1日1時間未満に制限することを推奨』でした [1]。ゼロにしろとは言っていません
参加者の実際の使用時間を見ると [1]。
- なし: 15.4%
- 1時間未満: 63.2%
- 1〜2時間: 16.5%
- 2時間以上: 4.9%
実は大多数の母親(63.2%)は1時間未満に収めていました。1時間未満の群は、使用なしの群と比べて発達指数に有意差は出ていません。目安は「1時間未満」です。
Q5.「どうやって減らせばいいですか?」
——気をつけると言っても、仕事の連絡もあるし
『全部減らす』ではなく、『使う時間帯と場所をずらす』が現実的です
外来でお伝えしている実践的な工夫を紹介します。
- 2子の目の前で使わない: 別室で、または背中を向ける数分間にまとめる
- 4「スマホタイム」を宣言: 「10分だけ使うね」と子に声をかけてから使う(5歳以降)
- 6充電場所を玄関に: 無意識に手が伸びる環境を物理的になくす
- 8通知を切る: 「反応させる仕組み」を減らす
- 10食事中と入浴前後は完全オフ: ターンテイキングが最も濃い時間を守る
- 12子と向き合う時間は画面を伏せる: 「見ていない宣言」が応答性を上げる
どれも一見地味ですが、「意思」ではなく「仕組み」で使用時間を減らす発想が鍵です。
Q6.「自分が疲れている時はどうすれば?」
——正直、スマホを見ている時間が『休憩』になっています
そこは大事な指摘です。母親自身の休息の価値を、論文も認めています
同じエコチル研究の考察でも、デジタルメディアは母親の他者との交流・感情調節・孤独感軽減の利点があると書かれています [1]。子と離れている時間に、意識的にスマホで情報や交流を取ること、これは問題ありません。
問題なのは「子と向き合っているはずの時間にスマホが割り込む」ことです。区切りをつけるだけで、子への応答性は戻ります。
夫・パートナー・祖父母に15分預けて、別室でスマホを見る。これは「ネグレクト」ではなく「質の高い育児のための休息」です。罪悪感を持つ必要はありません。大事なのは、子と向き合っている時間に集中して向き合えていること。24時間集中は不可能です。
言語-社会発達にピンポイントで効く
この研究の知見で最も示唆的なのは、影響が「言語-社会」に集中していたことです。運動発達や視空間認知は影響を受けていません [1]。
これは偶然ではなく、言語発達が「相互のやりとり」に最も依存するためです。運動は子ども自身の身体経験で発達しますが、言葉は他者との会話がないと育ちません。親のスマホ使用で中断されるのは、まさにこの「会話」です。
2歳時点の発達は、後の学業成績や成人期の社会経済的地位を予測することが知られています [1]。「最初の1,000日」という表現もこの研究で使われています。受胎から2歳までが脳の可塑性が最大で、身体・認知・社会情動の基盤を作る時期です。

おかもん先生より
私も2人の子を育ててきて、スマホを手放せない時期はありました。でも、子が「ねえ」と言った時に画面から目を上げるかどうかで、子の言葉の育ちは違ってきます。完璧にはできません。でも「今は子の時間」と「今はスマホの時間」を分ける、その一歩から始めてほしいと思います。
今号のまとめ
- エコチル調査3,786組で、母親の「子と一緒にいる時」のデジタル機器1時間以上使用が2歳児の言語-社会発達低下と関連
- 2時間以上では総合発達指数も低下、用量反応関係あり
- テクノフェレンスは親の応答性・ターンテイキングを阻害
- 63%の母親は1時間未満に収めており、目安は「1時間未満」
- 減らすコツは「意思」より「仕組み」。使う時間帯・場所をずらす
- 母親自身の休息は大事。子と向き合う時間と分ければOK
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