愛育病院 小児科おかもん だより Vol.468
子どもの整腸剤って効くの?、ビオフェルミン・ミヤBMの正体
今号のポイント
- 2整腸剤は乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌を含む薬。ビオフェルミン・ミヤBM・ラックビーはそれぞれ違う菌種
- 4急性下痢の期間短縮効果は、最新のCochrane 2020で大規模試験を含めると『差はほぼなし』と結論が後退している
- 6抗生剤関連下痢の予防では中等度のエビデンスがあり、Cochrane 2019では9人投与で1人の下痢を防げる(NNT 9)
こんにちは。愛育病院小児科のおかもんです。
「胃腸炎で受診したらビオフェルミンを出されました。これって本当に効くんですか?」、外来で頻繁にいただく質問です。
整腸剤は処方頻度が非常に高い薬ですが、近年の大規模研究で「実は効果が小さいのではないか」という議論が起きています。今号では、何の菌が入っているのか、どの場面で効くと言えるのか、最新のエビデンスを整理します。
整腸剤って、結局なにが入っているんですか?
胃腸炎で『ビオフェルミン』が出ました。前に別の病院では『ミヤBM』でした。どちらも同じものですか?
似て見えますが、入っている菌は違います。日本でよく処方される整腸剤は、それぞれ別の菌種を含む薬です [1]
- ビオフェルミン錠剤 → ビフィズス菌(Bifidobacterium属)
- ミヤBM → 酪酸菌(Clostridium butyricum MIYAIRI、いわゆる宮入菌)
- ラックビー → ビフィズス菌(Bifidobacterium属)
- ビオフェルミンR → 耐性乳酸菌(抗生剤と併用しても生き残るよう調整された菌)
どれも目的は「腸内菌叢の異常による諸症状の改善」です。なかでもミヤBMは芽胞という殻を作る菌で、抗生剤と同時に飲んでも生き残るのが特徴です。他の整腸剤は、抗生剤と4時間以上空けて飲むのが基本になります
なお、市販されている「新ビオフェルミンS」は、医療用ビオフェルミン錠剤とは中身が違います。新ビオフェルミンSはビフィズス菌・フェカリス菌・アシドフィルス菌の3菌混合(さらにロンガム菌を加えた4菌は「新ビオフェルミンSプラス」)の指定医薬部外品で、処方薬とは別物として扱ってください
ポイント
- 銘柄によって菌種が違う(ビフィズス菌・酪酸菌・耐性乳酸菌)
- ミヤBMは抗生剤と同時に飲める珍しいタイプ [1]
- 市販ビオフェルミンSと処方のビオフェルミンは中身が別物
急性胃腸炎のとき、整腸剤は本当に効くんですか?
下痢が3日続いていて、もらった整腸剤を飲ませても良くなる感じがしません。これって、ちゃんと効いているんでしょうか?
正直にお話しすると、急性下痢に対する整腸剤の効果は、近年エビデンスが揺らいでいます
欧州小児消化器肝臓栄養学会(ESPGHAN)の2014年ガイドラインでは、特定の菌(Lactobacillus rhamnosus GG=LGG、Saccharomyces boulardii)が有効な選択肢の一つとして挙げられていました [2]。ところが2020年に更新されたCochraneレビュー(82試験、12,127人を含む大規模解析)では、「プロバイオティクスは48時間以上続く下痢の人数にほとんど差をもたらさず、下痢期間の短縮効果も不確実である」と結論が大幅に後退しました [3]
これは、研究の質を厳密に評価し、バイアスの低い大規模試験に絞って分析したためです。米国消化器病学会(AGA)の2020年ガイドラインも、小児の急性胃腸炎へのプロバイオティクスのルーチン使用は推奨しないとしています [4]。一方、2023年のESPGHANポジションペーパーは、特定の株(LGG、S. boulardii)について依然として一定の役割を認めており、ガイドライン間の見解は完全には一致していません [5]
「飲んだのに治らない」と感じても、それはお薬の問題というより、ウイルス性腸炎の自然経過(通常5〜7日)の中での個人差と考えてください。急性下痢で最も大事なのは脱水を防ぐための経口補水(ORS)です。日本小児栄養消化器肝臓学会の「小児急性胃腸炎診療ガイドライン 2017」でも、経口補水療法を第一推奨に位置づけており、整腸剤はあくまで補助です
ポイント
- 2014年は推奨、2020年Cochrane更新で効果ほぼなしに見解後退 [2][3]
- AGA 2020もルーチン使用は推奨せず [4]
- 急性下痢の主役は経口補水。整腸剤は補助
抗生剤と一緒に出された整腸剤、これは意味がある?
中耳炎で抗生剤と整腸剤を一緒に出されました。整腸剤も毎回飲ませた方がいいですか?
この場面は、エビデンスがしっかりある場面です。
抗生剤を飲むと、腸の善玉菌まで一緒に減って下痢を起こすことがあります(抗生剤関連下痢、AAD)。Cochraneの2019年レビュー(33試験、6,352人の小児)では、プロバイオティクスを併用するとAADの発症率がプラセボ群19%→プロバイオティクス群8%まで下がり、9人に1人で下痢を予防できる計算でした(NNT 9、moderate certainty)[6]
特に高用量(1日50億CFU以上)のLactobacillus rhamnosus GGまたはSaccharomyces boulardiiで効果が示されています [6]。日本で処方されるミヤBMやビオフェルミンRは、抗生剤と同時に飲んでも菌が生き残る設計です。処方された通り、抗生剤と一緒に飲んでください
整腸剤の世界では、「急性下痢の治療には期待ほど効かないが、抗生剤併用時のAAD予防には中等度の効果がある」と理解するのがフェアな見方です
ポイント
- 抗生剤併用時のAAD予防では中等度のエビデンスあり(NNT 9)[6]
- 高用量のLGGまたはS. boulardiiが有効 [6]
- 場面ごとに『効くか』が分かれる薬と理解する
胃腸炎の家庭ケアについては「子どもの胃腸炎、家でできる正しい対応」(gastroenteritis-home-care)も合わせてご覧ください。