愛育病院 小児科おかもん だより Vol.472
母乳が足りているかの見極め、おしっこ・体重・授乳間隔で読み解く
今号のポイント
- 2Day6以降、おしっこが1日6回以上あれば母乳が届いている客観的なサイン
- 4体重が生後10-14日で出生体重に戻り、その後順調に増えていれば足りている
- 6夜頻繁に起きる・哺乳量が不安でも、客観指標が正常なら補足は不要
こんにちは。愛育病院小児科のおかもんです。
本記事は満期で生まれた赤ちゃんが対象です。早産児・低出生体重児はかかりつけ医の指示を優先してください。また、お母さん側に乳房の強い痛みや発熱があれば乳腺炎の可能性があるので、産科または助産師に早めにご相談ください。
「母乳が足りているのかどうか、正直わからなくて毎日不安です」。
外来でこの言葉を聞かない週はありません。そしてそれは当然だと思っています。母乳は量が見えません。赤ちゃんが満足しているのかも、読み取るのが難しい。
厚生労働省が2015年に行った乳幼児栄養調査でも、授乳で困ったことの第1位は「母乳が足りているかどうかわからない」で40.7%を占めていました。完全母乳の母では31.2%、混合栄養の母では53.8%にのぼります。ほぼ半数のお母さんが同じ不安を抱えているということです。
だからこそ今号では、「感覚」ではなく「指標」で読み解く方法をお伝えします。
Q1: 母乳が足りているかどうか、何を見ればわかりますか?
毎回どのくらい飲んでいるのか見えないし、泣くたびに足りてないのかなと思ってしまいます。
おっしゃる通り、母乳は量が数値で出ません。だからこそ、赤ちゃんの体が出している「サイン」を読むのが正確な判断への近道です。
UNICEF UKの新生児アセスメントツール(UNICEF UK Baby Friendly Neonatal Assessment Tool)が示す排泄の目安がわかりやすいです。
生後1-2日は、濡れたオムツが1日1-2回以上、胎便も1回以上あれば正常です。生後3-4日になると3-4回以上に増えてきます。そして生後6日以降は、1日6回以上の重い濡れオムツが一つの目安になります。
色も重要です。最初の黒っぽい胎便から、生後3-4日かけてだんだん黄色い便に変わっていきます。生後10-14日以降は、柔らかくゆるい便が1日2回以上あることが一つの指標です。
授乳回数については、AAPの2022年勧告(PMID: 35921640)および厚労省の授乳・離乳の支援ガイド2019に沿えば、24時間で8-12回の頻回授乳が正常です。2-3時間おきに飲みたがるのは、欠乏のサインではなく、赤ちゃんの消化器の大きさと成長速度に合った正常な授乳リズムです。
さらに、「授乳後に赤ちゃんが落ち着く」「吸い終わりが乳首から自然に外れる」「授乳後に眠れる」といった様子も、満足のサインです。
ただ最も信頼できる指標は、体重です。次のQ2で詳しくお話しします。
ポイント
- Day6以降は濡れオムツが1日6回以上あるか確認する
- 24時間8-12回の授乳は正常な頻回授乳(欠乏サインではない)
- 授乳後の落ち着き・眠りも満足のサインの一つ
Q2: 体重の増え方で判断できますか? ミルクを足した方がいいサインも教えてください。
1ヶ月健診で体重を測るまで本当に増えているのか不安で、毎日ベビースケールを借りて測っています。
体重は最も客観的な指標です。一般的な目安として、生後10-14日で出生体重に戻り、その後1-3か月は1日約25-30g、3-6か月は1日約15-20gの増加が続いていれば、母乳は届いています。
「何%減ったら危険か」という基準については、Flahermanらが2015年にカイザーの約16万児(うち完全母乳児約11万人)のデータをもとに公表した体重減少ノモグラム(PMID: 25554815)が参考になります。経膣分娩の赤ちゃんの約5%、帝王切開の赤ちゃんの10%超が出生後48時間で体重の10%以上を失うことがわかっています。新生児の体重変化は出産方式・時間帯で大きく異なるため、「10%以上減少した」だけで自動的に補足が必要というわけではなく、生後の時間経過と合わせて評価することが重要です。在宅でも確認できる参照ツールとして newbornweight.org(Newt nomogram)があります。
補足の介入を相談すべきサインとしては、以下のいずれかがあてはまる場合です。
体重が出生体重の10%以上減少している。生後10-14日を過ぎても出生体重に戻っていない。Day6以降に濡れオムツが1日6回未満。便が黒い胎便のまま変わらない。赤ちゃんがぐったりして起こしても起きない、目の焦点が合いにくい。皮膚のハリがなく、大泉門(頭の上の柔らかい部分)がへこんでいる。口の中が乾いている。
日本からの研究として、富山県立中央病院の585人のデータ(Futatani et al., PMID: 29173326)では、毛細血管血ケトン体が1.55mmol/L以上で過剰な体重減少を、1.85以上で高ナトリウム血症性脱水(体から水分が失われすぎた状態)を予測できることが報告されています。入院が必要な高ナトリウム血症性脱水の赤ちゃんの90%が完全母乳だったというデータもあります [9]。
「ミルクを足したら負け」という気持ちはよくわかります。ただ赤ちゃんの体が必要なサインを出しているときは、補足は母親の判断力の証であって、失敗ではありません。
ポイント
- 生後10-14日で出生体重に戻っているかが最重要チェックポイント
- 体重減少10%以上・嗜眠・大泉門陥凹は小児科受診のサイン
- 補足は失敗ではなく、赤ちゃんのサインを読んだ正しい判断
Q3: 夜中に何度も起きて泣くのは、母乳が足りていないからですか?
3時間もすれば泣き出すのでずっと授乳している気がして、やっぱり足りていないのかなと思います。
その疑問を持つお母さんは多いです。ただ、夜の頻回授乳は母乳不足のサインとは限りません。
Peacock-Chambersらが2017年に発表した質的研究(N=20、PMID: 28570412)では、65%の母親が「母乳が足りていない」という感覚(perceived insufficient milk, PIM)を経験していると報告されています。サンプル数は小さいですが、PIMの多くは主観的な感覚や乳児の行動の解釈のずれが原因であり、実際には母乳は出ていても「足りていない」と感じてしまうことが多い、という知見です。PIMが早期断乳の主な原因になっていることも示されています。
生後2-4か月の赤ちゃんが夜2-3時間おきに起きるのは、発達的に正常な行動です。胃が小さいため1回に飲める量に限りがあり、またこの時期は分離不安の前段階として大人の存在を求める傾向もあります。頻回に起きること自体は、不足の証拠にはなりません。
判断の基準はあくまで客観的な指標に持っていくことが大切です。Q1でお話しした排泄の回数と様子、Q2でお話しした体重の推移が正常範囲であれば、夜中に何度起きていても母乳は届いています。
もし指標の読み方に迷ったとき、あるいは授乳の姿勢や含ませ方に悩んでいるときは、IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)という専門職への相談が選択肢にあります。NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC、jalc-net.jp)から近くのIBCLCを探すことができます。
ポイント
- 夜の頻回授乳は乳児の正常な発達行動であり、不足のサインではない
- 「足りていない感覚」(PIM)は65%の母親が経験するが、多くは感覚のずれ
- 判断は感覚より客観指標(排泄・体重)で。迷えばIBCLCに相談を