愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.142
「妊娠中の感染が心配」、サイトメガロウイルスと先天性感染を知ろう
今号のポイント
- 2サイトメガロウイルス(CMV)は先天性感染症の最多原因で、出生児の約300人に1人が感染
- 4妊娠中の初感染が最もリスクが高いが、再感染・再活性化でも起こりうる
- 6上の子の唾液・尿を介した感染が多いため、妊娠中の手洗いが最も有効な予防策
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「妊娠中にサイトメガロウイルスの検査を勧められました」「上の子の世話をしながら感染しないか心配です」、妊婦さんからこうしたご質問を受けることが増えています。
サイトメガロウイルス(CMV)は先天性感染症の中で最も多い原因であり、小児科医にとっても非常に重要なテーマです [1]。今回は、CMV感染症について詳しくお伝えします。
Q1.「サイトメガロウイルスって何ですか?」
——サイトメガロウイルスは初めて聞きます。どんなウイルスですか?
サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus: CMV)はヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスで、ヒトヘルペスウイルス5型(HHV-5)とも呼ばれます [1]。日本人の成人の約70〜90%がすでに感染しています [2]
CMVの基本情報 [1][2]:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ウイルス分類 | ヘルペスウイルス科βヘルペスウイルス亜科 |
| 感染率 | 日本人成人の約70〜90% |
| 感染経路 | 唾液、尿、母乳、性行為、輸血、臓器移植 |
| 特徴 | 一度感染すると生涯潜伏感染。免疫低下時に再活性化 |
健康な人では感染しても無症状〜軽い風邪症状で済みますが、問題になるのは妊娠中の初感染による胎児への垂直感染(先天性CMV感染症)です [1][2]
ポイント
- CMVは日本人成人の70〜90%が既感染 [2]
- 一度感染すると生涯潜伏感染 [1]
- 妊娠中の初感染による先天性感染が最も問題 [1]
Q2.「先天性CMV感染症とは何ですか?赤ちゃんにどんな影響がありますか?」
——妊娠中に感染すると赤ちゃんにどんな影響がありますか?
先天性CMV感染症は、出生児の約0.3〜0.5%(約300人に1人)に発生するとされています [3]。国内では年間約3,000人の赤ちゃんが先天性CMV感染で生まれていると推定されています [3]
先天性CMV感染症の症状 [3][4]:
| 分類 | 症状 |
|---|---|
| 症候性(約10〜15%) | 低出生体重、肝脾腫、黄疸、血小板減少、小頭症、脳室周囲石灰化 [3] |
| 無症候性(約85〜90%) | 出生時は無症状。しかし10〜15%が後に難聴を発症 [4] |
ここが重要なポイントです。出生時に無症状でも、後から感音性難聴が出現することがあります [4]。先天性CMV感染症は小児の後天性難聴の最多原因とされています
感染のリスク [3]:
胎児感染率
- 妊娠中の初感染
- 30〜40%
- 再感染・再活性化
- 1〜3%
症候性の割合
- 妊娠中の初感染
- 症候性が多い
- 再感染・再活性化
- 症候性は少ない
ポイント
- 出生児の約300人に1人が先天性CMV感染 [3]
- 無症候性でも後から難聴が出現することがある [4]
- 妊娠中の初感染が最もリスクが高い [3]
Q3.「妊娠中にどうやって感染するのですか?予防法は?」
——上の子がいるのですが、感染しないか心配です
実は、上のお子さんの唾液や尿が最大の感染源です [5]。保育園に通うお子さんの約30〜50%がCMVを唾液や尿中に排泄しています [5]
主な感染経路 [5]:
| 経路 | 具体的な状況 |
|---|---|
| 上の子の唾液 | 食べ残しを食べる、同じスプーンを使う、口へのキス |
| 上の子の尿 | おむつ交換時の手指汚染 |
| 性行為 | パートナーからの感染 |
| 保育園児との接触 | 保育士さんも感染リスクあり |
妊娠中の予防策 [5][6]:
| 対策 | 具体的な方法 |
|---|---|
| 手洗い | おむつ交換後、鼻水を拭いた後、食事の世話の後に石けんで15〜20秒 |
| 食器の共有を避ける | お子さんの食べ残しを食べない、スプーン・コップを共有しない |
| 口へのキスを避ける | 頬やおでこにキスする |
| おもちゃの清掃 | よだれのついたおもちゃは石けんと水で洗う |
手洗いの徹底が最も有効な予防策です [6]。過度に神経質になる必要はありませんが、上のお子さんの唾液・尿に触れた後の手洗いは意識してください
ポイント
- 上の子の唾液・尿が最大の感染源 [5]
- 手洗いが最も有効な予防策 [5][6]
- 食器の共有や口へのキスを避ける [6]
Q4.「赤ちゃんが感染していた場合の検査と治療は?」
——もし赤ちゃんが感染していたら、どうなりますか?
先天性CMV感染症の診断は生後3週間以内に行う必要があります [7]
診断方法 [7]:
| 検査 | 内容 |
|---|---|
| 尿CMV-PCR | 生後3週間以内の尿が最も確実(感度・特異度ともに高い) |
| 新生児聴覚スクリーニング | 出生時の難聴の有無を確認 |
| 頭部超音波・MRI | 脳室周囲石灰化、脳室拡大の確認 |
| 眼科検査 | 網脈絡膜炎の有無 |
症候性の先天性CMV感染症に対しては、抗ウイルス薬(バルガンシクロビル)による治療が行われます [7][8]
治療 [7][8]:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 適応 | 症候性先天性CMV感染症(中枢神経病変あり) |
| 薬剤 | バルガンシクロビル内服(6ヶ月間) |
| 効果 | 難聴の進行抑制、神経発達の改善が期待される [8] |
| 副作用 | 好中球減少(定期的な血液検査が必要) |
ポイント
- 診断は生後3週間以内の尿PCRが最も確実 [7]
- 症候性にはバルガンシクロビルによる6ヶ月間の治療 [7][8]
- 治療により難聴の進行抑制が期待される [8]
Q5.「妊娠前の検査は必要ですか?」
——次の妊娠前に検査を受けたほうがいいですか?
現在、日本では妊婦のCMV抗体スクリーニングは一律には推奨されていません [6]。ただし議論は続いています
スクリーニングの現状 [6]:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 日本の現状 | 一律スクリーニングは非推奨だが、希望者には実施する施設あり |
| 抗体陽性の場合 | 過去に感染済み。再感染リスクは低いが完全にゼロではない |
| 抗体陰性の場合 | 未感染。妊娠中の初感染リスクあり→予防行動が特に重要 |
| ワクチン | 現時点で承認されたワクチンはなし(開発中) |
抗体の有無にかかわらず、妊娠中の手洗い・衛生行動が最も重要です [6]。先天性CMV感染症は予防策でリスクを大幅に下げられることが分かっていますので、過度な恐怖ではなく正しい知識と行動で対応しましょう
ポイント
- 日本では一律のCMVスクリーニングは非推奨だが議論中 [6]
- 承認されたワクチンはまだない [6]
- 手洗い・衛生行動が最も有効な予防策 [6]
まとめ
- CMVは先天性感染症の最多原因で、出生児の約300人に1人 [1][3]
- 妊娠中の初感染が最もリスクが高い [3]
- 無症候性でも後から難聴が出現することがある [4]
- 上の子の唾液・尿が最大の感染源。手洗いが最も有効な予防策 [5][6]
- 症候性にはバルガンシクロビルによる治療で難聴進行抑制が期待 [7][8]
- 過度な恐怖ではなく正しい知識と行動で対応を [6]
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