愛育病院 小児科おかもん だより Vol.475
子どもの咳止め、本当に効くの?、アスベリン・メジコンとハチミツの話
今号のポイント
- 2アスベリン・メジコンなどの咳止めは、小児での有効性を示す良質なRCTがほとんどなく、Cochraneレビューでも「プラセボより有意に効く」とは言えない
- 41歳以上の子どもには、蜂蜜が咳の頻度を有意に減らすことがCochrane 2018(6RCT・899人)で示されており、デキストロメトルファンと同程度の効果がある
- 64週以上続く湿性の咳は風邪後と決めつけず、マイコプラズマ・百日咳・喘息・PBBの鑑別のために必ず受診する
こんにちは。愛育病院小児科のおかもんです。
「咳がひどくて夜眠れなくて、もっと強い咳止めをもらえませんか」という相談は、外来でとても多くいただきます。
そしていつも少し複雑な気持ちになるのは、「強い咳止め」が実はそれほど効かないかもしれない、というエビデンスが積み重なっているからです。今号では、アスベリンやメジコンといった定番の咳止めの実態と、意外な事実として「蜂蜜」の話をお伝えします。
Q1: 咳がひどくて夜眠れません。もっと強い咳止めをもらえませんか?
夜中に何度も咳き込んで、子どもも私たちも眠れていません。今飲んでいるアスベリンより効く薬はないんでしょうか。
つらい夜が続いているのですね。正直にお伝えします。
市販・処方の咳止めが小児で「どれくらい効くか」について、Cochrane(コクラン)という信頼性の高いシステマティックレビューがあります。2014年版では29のランダム化比較試験、4,835人を解析しました [1]。その結論は、「市販の咳止め薬が急性の咳に対してプラセボ(偽薬)より有意に効くというエビデンスはない」というものでした。特に小児のサブグループでは、鎮咳薬、抗ヒスタミン薬、それらの配合剤のいずれも、プラセボとの差は示されませんでした。
アスベリン(チペピジン)は延髄の咳中枢を抑制する国内の処方薬で、長年使われてきた薬です。しかし小児の咳嗽を対象にした良質なRCTはほとんどなく、「日本独自の処方文化」という側面があります。メジコン(デキストロメトルファン)も中枢性鎮咳薬ですが、こちらも小児での有効性の証拠は限定的です。
「効かない」と断言しているわけではありません。「臨床試験で平均をとると、差が出るほどの効果は確認できない」というのが現在の知見です。処方しないよりは、と思って使っているのが正直なところで、特効薬をお渡しできていないことは申し訳なく思っています。
夜の咳がつらい場合、薬を強くする方向よりも先に確認してほしいことがあります。
部屋の加湿をしていますか。乾燥した空気は気道の粘膜を刺激して咳を増やします。湿度50〜60%を目安に加湿器を使ってください。ただし加湿器のタンクは毎日清潔にしてください。カビや細菌が増えると逆効果になります。
上半身を少し高くして寝かせることも有効なことがあります。枕を1枚足すか、背中側に丸めたバスタオルを入れて、頭が少し高くなるようにしてみてください。
後鼻漏(こうびろう)、つまり鼻水が喉の後ろに流れ込んで咳き込むパターンは意外と多いです。寝る前に鼻を吸ってあげることで、夜間の咳が減ることがあります。
ポイント
- Cochrane 2014(29試験・4,835人):市販・処方の咳止めはプラセボと有意差なし [1]
- アスベリンは小児対象の良質なRCTがほとんど存在しない
- 加湿、上半身挙上、寝前の鼻吸引を先に試す
Q2: じゃあ、子どもの咳に一番効くのはなんですか?
薬が効かないなら何をすればいいんでしょう。何か効果が証明されているものはありますか?
実は、証拠がある方法があります。意外かもしれませんが、蜂蜜です。
Cochrane 2018年のレビューでは、急性咳嗽を持つ小児を対象にした6つのRCT、899人分のデータが解析されました [2]。結果は、蜂蜜が「無治療より有意に咳の頻度を減らした」(プラセボとの比較でも有意差あり)というものでした。さらに、ジフェンヒドラミン(抗ヒスタミン薬)よりも蜂蜜のほうが効果が高く、デキストロメトルファン(メジコンの成分)とは同程度の効果があることも示されました。
2007年のPaul IMらの研究でも、2〜18歳の105人でそばの花の蜂蜜が無治療より夜間の咳と睡眠を有意に改善したことが報告されています(デキストロメトルファンとは有意差なし)[3]。
使い方の目安は、就寝前に2〜5mL(小さじ半分〜1杯、年齢が大きい子は小さじ1〜2杯まで)です。AAPは2-5歳で小さじ半分、6-11歳で小さじ1杯、12歳以上で小さじ2杯を目安としています。喉の粘膜を覆って刺激を和らげる作用と、抗炎症・抗菌作用が関係していると考えられています。
ただし、絶対に守ってほしいことが1つあります。1歳未満には蜂蜜を絶対に与えないでください。蜂蜜にはボツリヌス菌の芽胞が含まれることがあり、腸の働きが未熟な乳児では乳児ボツリヌス症という深刻な感染症を起こす危険があります。1歳以上のお子さんであれば安全に使えます。Cochraneレビューの試験対象も12か月〜18歳でした [2]。
他に組み合わせてほしいことをまとめると、以下の通りです。
- 水分をこまめに補給する(痰をやわらかくする効果がある)
- 加湿を継続する(乾燥を防ぐ、ただし毎日清掃を忘れずに)
- 後鼻漏が疑われる場合は鼻水を吸ってあげる
- 上半身を少し高くして寝かせる
ポイント
- 蜂蜜(1歳以上):Cochrane 2018(6RCT・899人)で咳を有意に減少、moderate-certainty [2]
- デキストロメトルファンと同程度の効果、ジフェンヒドラミンより優位 [2]
- 1歳未満には絶対禁忌(乳児ボツリヌス症リスク)
Q3: 2週間以上咳が続いています。これって普通ですか?
風邪を引いてから2週間以上経つのに、まだ咳が続いています。そろそろ治ってもいいと思うんですが、このまま様子を見ていいんでしょうか。
2週間はひとつの目安になります。少し詳しくお伝えします。
風邪(上気道炎)後の咳は、通常1〜3週間以内に収まります。これを超えて続く場合は、「長引く咳」として別の原因を考える必要があります。CHEST学会のガイドライン(2020年、Chang ABら)では、4週以上続く咳の鑑別評価を推奨しています [4]。
特に注意してほしいのは咳の性状です。
乾いた咳と、痰がらみの湿った咳では原因が違います。湿性の咳が2〜4週間以上続く場合、「慢性気道感染症(PBB:protracted bacterial bronchitis)」の可能性があります。PBBは感染後に気道内で細菌が繁殖し続けている状態で、適切な抗菌薬(通常2週間)で改善します [4]。
他に鑑別すべき原因としては、マイコプラズマ肺炎(小学生以上に多く、はじめは微熱と乾いた咳)、百日咳(ワクチン接種済みでも軽症でかかることがある)、副鼻腔炎(後鼻漏による咳)、咳喘息・気管支喘息(夜間・運動後の悪化が特徴)などがあります。
今すぐ受診してほしいサインも覚えておいてください。
- 呼吸数が増えている(安静時に1分間で乳幼児40回以上、学童30回以上)
- 肋骨の間や鎖骨の下が呼吸のたびにへこむ(陥没呼吸)
- 顔色が悪い、唇が青白い
- ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音がある
- 「ひゃー」という笛のような音が出る(クループ様)
- 咳き込んだ後にうまく息ができない
2週間が経過して改善の兆候がない場合は、長引く理由を調べるために受診してください。「もう少し様子を見て」の4週目は、早期治療のチャンスを逃すことになります。
ポイント
- 風邪後の咳は通常3週間以内に収束する
- 4週以上続く場合はCHESTガイドライン上、鑑別評価を推奨 [4]
- 湿性の遷延する咳はPBB(慢性気道感染症)を疑い受診
- 呼吸苦・陥没呼吸・顔色不良は今すぐ受診
去痰薬(ムコダイン・ムコソルバン)は「咳止め」と思われがちですが、咳中枢には作用せず、痰を出しやすくする薬です。この違いについては「去痰薬ってなんのため?ムコダイン・ムコソルバンの正体」で詳しくお伝えする予定です。
風邪薬全般の整理については「子どもの『風邪薬』って結局なに? 処方薬と市販薬の正体」(Vol.467)もあわせてどうぞ。