愛育病院 小児科おかもん だより Vol.15
「アレルギー検査が陽性=食べちゃダメ」は間違いです
今号のポイント
- 2血液検査の「陽性」はアレルギーの確定ではない。食べても症状が出ないケースが多い
- 4不要な除去は栄養不足のリスクに加え、むしろアレルギーを悪化させる可能性がある
- 6「早めに少量ずつ食べること」が現代のアレルギー予防の鍵。スキンケアとセットで
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
今回のテーマは食物アレルギーの血液検査です。
まず安心していただきたいのは、検査が「陽性」でも食べられるケースは実はとても多い、ということです。 「陽性=食べちゃダメ」ではありません。
「念のためアレルギー検査をしてもらったら、卵と牛乳が陽性でした。もう食べさせないほうがいいですよね?」。こうした相談がとても多いのですが、その判断、ちょっと待ってください。
今号では、食物アレルギーの血液検査の正しい読み方をお伝えします。
Q1.「血液検査が陽性なのに食べていいんですか?」
——離乳食を始めるにあたって、心配だったので小児科でアレルギーの血液検査をお願いしました。そしたら卵白がクラス3と出て、先生に『除去してください』と言われたんですが……
まず大前提をお伝えしますね。食物アレルギーの血液検査(特異的IgE検査=特定の食物に対するアレルギーの指標を調べる検査)は、アレルギーの「感作」(体がその食べ物に対して反応する状態になっていること)を調べる検査です。「食べたらアレルギー症状が出るかどうか」を直接調べる検査ではありません [1]
——え? 陽性=アレルギーじゃないんですか?
はい、陽性=アレルギーではありません。これが最も重要なポイントです。血液検査でIgE抗体(アレルギーに関係する免疫物質)が陽性(クラス1以上)であっても、実際に食べて症状が出ない人がたくさんいます。逆に、検査が陰性でも症状が出ることもあります [1]。日本のアレルギー学会のガイドラインでも、『食物アレルギーの診断は食物経口負荷試験(OFC)で行うべきであり、IgE検査のみで診断してはならない』と明記されています [2]
——じゃあ、あの検査結果だけで除去を始めてしまったのは……
不要な除去だった可能性があります。特にクラス2〜3程度の場合、実際に食べて問題ない確率はかなり高いんです。不要な除去を続けると、栄養不足や成長への悪影響のリスクがあるだけでなく、後でお話しするようにむしろアレルギーを悪化させてしまう可能性すらあるんです [2][3]
ポイント
- 血液検査の陽性は「感作」であり、「アレルギー」ではない [1]
- 食べても症状が出ないケースが多い [1]
- 食物アレルギーの確定診断には食物経口負荷試験(OFC)が必要 [2]
- 検査結果だけで除去を始めるのは推奨されていない [2]
Q2.「じゃあ、血液検査は何のためにするんですか?」
——意味がない検査なんですか? わざわざ採血したのに……
いえ、検査に意味がないわけではありません。使い方が大事なんです。IgE検査は、食べて症状が出たことがある食品に対して、原因を裏付けるための補助的な検査として使います [1]。つまり、こういう使い方が正しいんです
正しい使い方:
- 卵を食べてじんましんが出た → IgE検査で卵白陽性 →「卵アレルギーの可能性が高い」
間違った使い方:
- まだ食べたことがない → 「念のため」IgE検査 → 陽性 →「食べちゃダメ」
後者のパターンが、残念ながら非常に多いんです。食べたこともない食品をIgE検査だけで除去する(予防的除去)は、現在のガイドラインでは明確に推奨されていません [2]。むしろ、次にお話しする理由で逆効果になる可能性があるんです
ポイント
- IgE検査は食べて症状が出た食品の原因を裏付ける補助検査 [1]
- 「念のため」の検査で陽性 → 除去は間違った使い方
- 予防的除去はガイドラインで推奨されていない [2]
Q3.「除去を続けるとかえってアレルギーが悪化するって本当ですか?」
——食べさせないほうが安全だと思っていたんですが、逆効果なんですか?
はい。近年の研究で、食物アレルギーの予防には「食べないこと」ではなく「早めに少量ずつ食べること」が有効だということがわかってきました。この分野を大きく変えた研究があります
2015年にイギリスで発表されたLEAP試験です [4]。ピーナッツアレルギーのリスクが高い乳児640人を、生後4〜11ヶ月からピーナッツを定期的に食べるグループと5歳まで完全に除去するグループに分けました。結果は衝撃的で、5歳時点でのピーナッツアレルギー発症率は、食べたグループが3.2%、除去したグループが17.2%。つまり、早くから食べたほうがアレルギーの発症が約80%も少なかったのです [4]
——5倍以上の差……!食べさせたほうがアレルギーにならないなんて、直感に反しますね
卵についても同様のエビデンスがあります。日本のPETIT試験(2017年)では、アトピー性皮膚炎のある乳児に生後6ヶ月からごく少量の加熱卵粉末(1日50mg=微量の加熱全卵)を食べさせたグループは、除去したグループに比べて1歳時点の卵アレルギー発症が約78%少なかった(8.3% vs 38%)と報告されています [5]
——日本の研究でも同じ結果が出ているんですね。でもアレルギーのリスクがある子に食べさせるのは怖いです……
もちろん、すでに食物アレルギーと診断されているお子さんに自己判断で食べさせるのは危険です。ここでお伝えしたいのは、「まだ食べたことがないのに検査だけで除去する」のは科学的根拠がなく、むしろ逆効果になりうるということです。離乳食の進め方については、かかりつけの小児科医やアレルギー専門医に相談してくださいね
ポイント
- 「食べないこと」ではなく「早めに少量ずつ食べること」がアレルギー予防に有効 [4][5]
- LEAP試験: 早期摂取でピーナッツアレルギーが約80%減少 [4]
- PETIT試験(日本): 早期摂取で卵アレルギーが約78%減少 [5]
- ただし既にアレルギーと診断済みの食品を自己判断で食べさせるのはNG
Q4.「食物経口負荷試験って何ですか? 怖くないですか?」
——食物経口負荷試験(OFC)が大事だとおっしゃいましたが、実際にアレルギーかもしれない食品を食べさせるって、怖くないですか?
ご不安はもっともです。食物経口負荷試験は、医師の監督のもと、アレルギーが疑われる食品を少量ずつ段階的に食べて、症状が出るかどうかを確認する検査です [2]。食物アレルギーの唯一の確定診断法であり、同時に安全に食べられる量を確認する方法でもあります
——症状が出たらどうするんですか?
万が一症状が出ても、すぐに対応できる態勢を整えた上で実施します。多くの医療機関では、抗ヒスタミン薬やアドレナリン(エピペン)をすぐに使える状態で行います。負荷試験の結果、3つのパターンに分かれます
- 2症状なし → 「食べてOK」と確認。不要な除去を解除できる
- 4少量で症状あり → 「その食品は当面除去が必要」と確定
- 6一定量までは症状なし → 「ここまでは安全に食べられる」量がわかる
特に重要なのは③です。完全除去ではなく、安全に食べられる範囲で食べ続けることが、将来的にアレルギーを治していく(耐性獲得)上でも大切とされています [2]。『全か無か(食べるか食べないか)』ではなく、『どこまで食べられるか』を知るのが現代の食物アレルギー診療の基本です
ポイント
- 食物経口負荷試験は食物アレルギーの唯一の確定診断法 [2]
- 医師の監督下で安全に実施。アレルギー反応への対応態勢を整えて行う
- 「食べられるか食べられないか」だけでなく「どこまで食べられるか」がわかる
- 安全な範囲で食べ続けることがアレルギーの治癒(耐性獲得)につながる [2]
Q5.「結局、離乳食はどう進めたらいいですか?」
——アレルギーが怖くて離乳食を遅らせていたんですが、それも逆効果なんですか?
はい。現在のエビデンスでは、離乳食の開始を遅らせてもアレルギー予防にはならないことがわかっています。むしろ、生後5〜6ヶ月頃から離乳食を始め、アレルギーの多い食品(卵・ピーナッツなど)も適切なタイミングで導入していくことが推奨されています [6]
——卵はいつから?
日本の離乳食ガイドラインでは、卵は生後5〜6ヶ月から、固ゆで卵の卵黄を耳かき1杯程度から始めることが推奨されています [6]。先ほどのPETIT試験の結果もこれを支持しています。大切なのは以下の3つです
- 2離乳食の開始を遅らせない(生後5〜6ヶ月が目安)
- 4スキンケアを徹底する(湿疹などで傷ついた皮膚から食べ物の成分が入り込むと、体がアレルギーの準備状態になってしまう「経皮感作」のリスクがある)
- 6新しい食品は少量ずつ、日中に、自宅で(万が一の症状に対応できるように)
Vol.9でお話ししたスキンケア(保湿)と、離乳食の進め方は実はセットなんです。肌の状態を良くしてから食べ物を導入する。これが現代の食物アレルギー予防の基本戦略です [4][5][6]
ポイント
- 離乳食の開始を遅らせてもアレルギー予防にはならない [6]
- 卵は生後5〜6ヶ月から固ゆで卵黄を耳かき1杯から [6]
- スキンケア+早期食品導入が現代のアレルギー予防戦略 [4][5][6]
今号のまとめ
- 血液検査の陽性=アレルギーではありません。「感作」と「アレルギー」は別物です [1]
- 「念のため検査 → 陽性 → 除去」は間違ったパターン。不要な除去は栄養不足とアレルギー悪化のリスク [2]
- アレルギー予防の鍵は「食べないこと」ではなく「早めに少量ずつ食べること」 [4][5]
- 確定診断には食物経口負荷試験が必要。「どこまで食べられるか」を知ることが大切 [2]
- スキンケア+離乳食の適時導入がアレルギー予防のセット戦略 [4][5][6]
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