愛育病院 小児科おかもん だより Vol.315
「おちんちんの袋が腫れている?」、陰嚢水腫の正しい知識
今号のポイント
- 2陰嚢水腫は精巣の周りに液体が溜まる病態で、新生児男児の1〜2%にみられる
- 4ペンライトを当てると光が透ける(透光性陽性)のが特徴。鼠径ヘルニアとの鑑別が重要
- 6多くは1歳までに自然消失する。1〜2歳以降も持続する場合に手術を検討
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「赤ちゃんのおちんちんの袋が片方だけ大きいんです」「陰嚢が腫れていて心配です」、新生児期や乳児健診でよくいただくご相談です。これは陰嚢水腫(いんのうすいしゅ)の可能性があります。
陰嚢水腫は決して珍しい病気ではなく、新生児男児の1〜2%にみられます [1][2]。多くは自然に治りますが、鼠径ヘルニア(脱腸)との区別が大切です。今回は、陰嚢水腫について知っておいていただきたいポイントをQ&A形式でお伝えします。
Q1.「陰嚢水腫ってどんな病気ですか?」
お父さん「1ヶ月健診で『陰嚢水腫かもしれない』と言われました。陰嚢水腫とは何ですか?」
陰嚢水腫とは、精巣(睾丸)を包んでいる膜(鞘膜:しょうまく)の中に液体が溜まって、陰嚢が腫れる状態のことです [1][2]。精巣自体には問題がなく、溜まっているのは体液(漿液)で、痛みはありません
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 病態 | 精巣を包む鞘膜の中に液体が貯留し、陰嚢が腫大する [1] |
| 頻度 | 新生児男児の約1〜2% [1][2] |
| 痛み | 通常なし [2] |
| 発症時期 | 多くは出生時〜乳児期に気づかれる [1] |
| 左右差 | 片側性が多いが、両側のこともある [2] |
なぜ液体が溜まるのかを理解するには、精巣が降りてくる過程を知る必要があります。胎児期に精巣はお腹の中(腹腔内)にあり、出生前に鼠径管(そけいかん)という通り道を通って陰嚢に降りてきます [1][3]。このとき、お腹と陰嚢をつなぐ管(腹膜鞘状突起:ふくまくしょうじょうとっき)が一緒にできます。通常、この管は生まれる前後に自然に閉じるのですが、閉じる前に液体が溜まってしまったものが陰嚢水腫です [1][3]
陰嚢水腫には2つのタイプがあります
特徴
- 非交通性陰嚢水腫
- 腹膜鞘状突起が完全に閉鎖しており、溜まった液体が封じ込められている。陰嚢の大きさは一定 [1][2]
- 交通性陰嚢水腫
- 腹膜鞘状突起が開通したままで、腹腔との間を液体が行き来する。日中は大きく、朝は小さいなど大きさが変動する [1][2]
頻度
- 非交通性陰嚢水腫
- 乳児に多い
- 交通性陰嚢水腫
- やや少ないが重要
お父さん「交通性と非交通性で何が違うんですか?」
非交通性は溜まった液体が徐々に吸収されるため、多くは1歳までに自然消失します [1][2]。一方、交通性はお腹との間に通路が残っているため自然に治りにくく、また鼠径ヘルニアを合併するリスクがあるため、より注意が必要です [1][3]
ポイント
- 陰嚢水腫は精巣の周りに液体が溜まった状態。痛みはない [1][2]
- 非交通性(閉じている)と交通性(お腹とつながっている)の2タイプ [1]
- 交通性は大きさが変動するのが特徴で、鼠径ヘルニア合併に注意 [1][3]
Q2.「鼠径ヘルニアとどう見分けるんですか?ペンライトで光が透けるって本当ですか?」
お父さん「鼠径ヘルニアとの見分け方を教えてください」
これは非常に大切なポイントです。陰嚢水腫と鼠径ヘルニア(脱腸)は、どちらも陰嚢や鼠径部が腫れるという共通点がありますが、中身がまったく違います [3][4]
陰嚢水腫
- 中身
- 液体(漿液) [1]
- 痛み
- なし [2]
- 硬さ
- やわらかい、弾力性がある [2]
- 透光性(ペンライト)
- 陽性(光が透ける) [1][2]
- 還納性(押して戻る)
- 非交通性は戻らない。交通性はゆっくり小さくなる [1]
- 大きさの変動
- 交通性は変動する [1]
- 緊急性
- 通常なし [2]
鼠径ヘルニア
- 中身
- 腸管や大網(脂肪組織) [4]
- 痛み
- 嵌頓(かんとん)時に激痛 [4]
- 硬さ
- やや硬い、押すとグジュグジュした感触 [4]
- 透光性(ペンライト)
- 陰性(光が透けない) [4]
- 還納性(押して戻る)
- 用手的に押し戻せることが多い [4]
- 大きさの変動
- 泣いたり力んだ時に大きくなる [4]
- 緊急性
- 嵌頓の場合は緊急手術 [4]
診察室でよく行うのが透光試験(transillumination test)です [1][2]。暗い部屋でペンライトを陰嚢に当てると、陰嚢水腫の場合は液体を通して光が透けて、陰嚢が赤くキレイに光ります。一方、鼠径ヘルニアで腸が入っている場合は光が透けません。これが透光性の確認です
お父さん「家でもペンライトで確認できますか?」
家庭でスマートフォンのライトなどを使って試すことは可能ですが、あくまで参考程度にしてください [2]。透光性が陽性でもヘルニアを完全には否定できませんし、乳児の陰嚢は薄いため偽陽性になることもあります。正確な診断は超音波検査(エコー)が最も信頼性が高いです [5]。気になる場合は必ず受診してください
| 受診すべきサイン | 理由 |
|---|---|
| 陰嚢が急に大きく硬くなり、泣き止まない | 鼠径ヘルニアの嵌頓の可能性(緊急)[4] |
| 陰嚢が赤くなっている | 炎症や捻転の可能性 [6] |
| 嘔吐を伴う | ヘルニア嵌頓による腸閉塞の可能性 [4] |
| 大きさが日によって大きく変わる | 交通性陰嚢水腫やヘルニアの可能性 [1] |
ポイント
- 透光性試験:ペンライトで光が透ければ水腫、透けなければヘルニアを疑う [1][2]
- 超音波検査が最も正確な診断方法 [5]
- 急に硬く腫れて泣き止まない場合は、ヘルニア嵌頓の可能性あり→緊急受診 [4]
Q3.「陰嚢水腫は自然に治りますか?いつまで様子を見ていいですか?」
お父さん「自然に治ると聞きましたが、本当ですか?」
はい。非交通性陰嚢水腫の大部分は、1歳までに自然消失します [1][2][7]。これは溜まっていた液体が徐々に周囲の組織に吸収されるためです
| 自然消失の経過 | 詳細 |
|---|---|
| 6ヶ月まで | 多くの症例で縮小傾向がみられる [2] |
| 12ヶ月(1歳)まで | 大部分が自然消失 [1][7] |
| 12〜24ヶ月 | この時期まで残る場合、自然消失の可能性は低くなる [7] |
| 24ヶ月(2歳)以降 | 手術を検討する時期 [1][7][8] |
ただし、交通性陰嚢水腫の場合は自然消失しにくいため、早めに小児外科に相談することをお勧めします [1][3]。また、非交通性でも2歳を超えて持続する場合は手術の適応となることが多いです [7][8]
お父さん「定期的に通院は必要ですか?」
乳児健診(3〜4ヶ月、6〜7ヶ月、1歳など)のたびに診察で確認するのが一般的です [2]。大きさが急に変わったり、痛がる様子がある場合は健診を待たずに受診してください
| 経過観察中の注意点 | 対応 |
|---|---|
| 大きさがほぼ一定で痛みなし | 定期健診で経過観察 [2] |
| 大きさが日内変動する | 交通性の可能性。小児外科に相談 [1] |
| 急に大きくなった・硬くなった | 鼠径ヘルニア嵌頓の可能性→すぐ受診 [4] |
| 1歳過ぎても縮小しない | 小児外科に紹介 [7] |
ポイント
- 非交通性陰嚢水腫は1歳までに大部分が自然消失 [1][2][7]
- 交通性は自然消失しにくいため、早めの専門医相談を [1][3]
- 2歳以降も持続する場合は手術を検討 [7][8]
Q4.「手術はどんなものですか?将来の影響はありますか?」
お父さん「もし手術が必要になった場合、どんな手術をするんですか?将来の妊孕性(にんようせい)に影響はないですか?」
陰嚢水腫の手術は鞘膜の処理を行うもので、小児外科では日常的に行われている手術です [7][8]
| 手術の概要 | 詳細 |
|---|---|
| 手術名 | 鞘膜切除術(交通性の場合は腹膜鞘状突起の結紮術)[7][8] |
| 麻酔 | 全身麻酔(小児の場合)[8] |
| 所要時間 | 約30分〜1時間 [8] |
| 入院期間 | 日帰り〜1泊が多い [8] |
| 傷の大きさ | 鼠径部に2〜3 cm程度 [8] |
| 合併症 | まれに創部感染、血腫、再発(約1〜2%)[7][8] |
手術のタイミングについて、各ガイドラインの推奨をまとめます
| ガイドライン | 推奨される手術時期 |
|---|---|
| 日本小児外科学会 | 1〜2歳以降も持続する場合 [7] |
| 米国泌尿器科学会(AUA) | 12〜24ヶ月で改善がない場合 [8] |
| 欧州小児泌尿器科学会(ESPU) | 2歳を超えて持続する場合 [9] |
お父さん「将来の生殖機能に影響はありませんか?」
ご安心ください。陰嚢水腫そのものが精巣の機能に悪影響を与えることは通常ありません [2][7]。液体が溜まっているだけで精巣自体は正常です。手術も精巣を傷つけるものではなく、適切に行われれば将来の妊孕性(生殖能力)への影響はありません [8]
ただし、陰嚢水腫と停留精巣が合併している場合は、停留精巣の治療が別途必要になることがあります [10]。そのため、陰嚢水腫の診察時には精巣の位置も必ず確認します
ポイント
- 手術は鞘膜の処理で、日帰り〜1泊で行われる [7][8]
- 1〜2歳以降も持続する場合に手術を検討 [7][8][9]
- 精巣機能・将来の生殖能力への影響は通常なし [2][7][8]
まとめ
- 陰嚢水腫は精巣の周りに液体が溜まった状態で、新生児男児の1〜2%にみられる [1][2]
- 非交通性(液体が封じ込められている)と交通性(お腹とつながっている)の2タイプがある [1]
- ペンライトで光が透ける(透光性陽性)が特徴。鼠径ヘルニアとの鑑別が重要 [1][2][4]
- 確定診断は超音波検査が最も正確 [5]
- 非交通性の多くは1歳までに自然消失する [1][2][7]
- 1〜2歳以降も持続する場合に手術を検討。日帰り〜1泊の手術で治療可能 [7][8]
- 急に硬くなる・痛がる・嘔吐がある場合はヘルニア嵌頓の可能性があり緊急受診 [4]
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- Vol.186 鼠径ヘルニア(脱腸の症状と治療)
- Vol.232 停留精巣(精巣が降りてこない場合)
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