愛育病院 小児科おかもん だより Vol.3
インフルエンザワクチン徹底ガイド
注射 vs フルミスト、効果、接種時期、よくある疑問にすべて答えます
今号のポイント
- 2ワクチンの発症予防効果は40〜60%だが、重症化・入院を防ぐ効果は非常に大きい
- 4フルミスト(経鼻ワクチン)は針なし・1回で完了。ただし2歳未満や喘息のお子さんには使えない
- 6四価から三価への変更はB/山形系統の事実上の絶滅に基づく科学的判断で、防御力は変わらない
こんにちは、おかもん先生です。
前回(Vol.2)ではインフルエンザの治療薬と異常行動についてお話ししました。今回のテーマはインフルエンザワクチンです。「打ってもかかるなら意味がないのでは?」「フルミストって何?」「卵アレルギーがあっても大丈夫?」「三価ワクチンになったって本当?」、外来でよくいただくご質問に、最新のエビデンスをもとにお答えします。
インフルエンザは小さなお子さんにとって合併症のリスクが高い感染症です。ワクチンは「かからないため」だけでなく、「重症化を防ぐため」にとても重要な手段です。正しい知識をもとに、お子さんを守る最善の選択をしていきましょう。
Q1. ワクチンを打ってもインフルエンザにかかるなら意味がないのでは?
お母さん: 「去年ワクチンを打ったのに子どもがインフルエンザにかかりました。それなら打たなくてもいいのでは?」
おかもん先生: これは本当に多くいただくご質問です。お気持ちはよくわかります。ワクチンを打ったのにかかってしまうと、「意味がなかったのでは」と感じてしまいますよね。
まず正直にお伝えしますと、インフルエンザワクチンの発症予防効果はおおむね40~60%です。CDCが毎年実施しているワクチン有効性(Vaccine Effectiveness: VE)の調査では、シーズンによって変動はありますが、一般的にこの範囲の効果が報告されています [1]。つまり、ワクチンを打っても感染する可能性は確かにあります。
しかし、ワクチンの価値は「かかるか・かからないか」だけでは測れません。重要なのは、ワクチンを打っていれば、たとえかかっても重症化しにくくなるということです。
Cochrane Systematic Reviewでは、不活化インフルエンザワクチンの小児における発症予防効果が確認されています [2]。さらに、CDCの観察研究データでは、ワクチン接種によりインフルエンザ関連の入院リスクが小児で約40%低下することが示されています [1][3]。
また、2019-20シーズンのCDCの解析では、ワクチン接種がインフルエンザによる小児の入院を約41%予防し、集中治療室(ICU)への入室リスクも低減したと報告されています [3]。
わかりやすく例えると、ワクチンは「シートベルト」のようなものです。シートベルトをしていても事故に遭うことはありますが、怪我の程度を大幅に軽くしてくれます。インフルエンザワクチンも同じで、かかることはあっても、肺炎や脳症といった重い合併症から守ってくれるのです。
さらに、お子さんがワクチンを接種することは、周囲のご高齢の方や基礎疾患のある方への感染拡大を防ぐ集団免疫(多くの人が免疫を持つことで、免疫のない人への感染拡大も防ぐ効果)の観点からも大切なことです [4]。
ポイント インフルエンザワクチンの発症予防効果は40~60%ですが、重症化・入院の予防効果は非常に大きいです。「かかるかどうか」だけでなく、「重くなるかどうか」で考えましょう。ワクチンはお子さんを重症合併症から守る「シートベルト」です。
Q2. フルミスト(経鼻ワクチン)と注射、どちらがいいですか?
お母さん: 「注射が怖くて毎年大泣きするので、鼻にスプレーするワクチンがあると聞いて気になっています。注射とどちらがいいですか?」
おかもん先生: お子さんの注射嫌い、よくわかります。2023年に日本でもフルミスト(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン: LAIV。毒性を弱めた生きたウイルスを使うワクチン)が承認され、2024-25シーズンから接種が可能になりました [5]。注射なしで接種できるのは大きなメリットですね。
まず、注射のワクチン(不活化ワクチン: IIV)とフルミスト(LAIV)の違いをご説明します。
注射ワクチン(IIV)
- 投与方法
- 皮下注射(日本)/ 筋肉注射(海外)
- ワクチンの種類
- 不活化ワクチン
- 主な免疫
- 血中IgG抗体(全身免疫)
- 対象年齢
- 生後6か月以上
- 接種回数
- 13歳未満は2回
- 痛み
- 注射の痛みあり
フルミスト(LAIV)
- 投与方法
- 鼻腔内スプレー
- ワクチンの種類
- 弱毒生ワクチン
- 主な免疫
- 粘膜IgA抗体+全身免疫 [6]
- 対象年齢
- 2歳以上19歳未満(日本)
- 接種回数
- 1回(日本での承認内容)
- 痛み
- 針なし(鼻にスプレー)
フルミストの大きな特徴は、鼻の粘膜で分泌型IgA抗体(粘膜の表面で病原体の侵入をブロックする抗体)を誘導できることです [6]。インフルエンザウイルスはまず鼻やのどの粘膜から感染しますので、その「入口」で免疫が働くのは理にかなっています。
Belsheらが2007年にNew England Journal of Medicineに発表した大規模臨床試験では、6~59か月の小児において、LAIVは不活化ワクチンに比べてインフルエンザ発症を約55%追加的に減少させたと報告されています [7]。これはフルミストの粘膜免疫の優位性を示す重要な研究です。
ただし、フルミストの有効性については年によって変動があり、特に米国では2013-14、2015-16シーズンにA(H1N1)pdm09に対する有効性が低かったことを受け、CDCのACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)は2016-17〜2017-18シーズンにLAIVの使用を推奨しなかった経緯があります [4]。その後、ワクチン株の改良(H1N1コンポーネントの変更など)が行われ、近年のシーズンではIIVと同等の有効性が回復したことから、2018-19シーズン以降は再び推奨に戻っています [4][8]。
フルミストを接種できない方もいます。 弱毒とはいえ「生きたウイルス」を使うため、以下の方には使用できません [4][5]:
- 2歳未満または19歳以上(日本での承認範囲外)
- 免疫不全のお子さん
- 喘息の治療中、または2歳~4歳で過去12か月以内に喘鳴エピソードがあったお子さん
- アスピリン内服中のお子さん
- 妊娠中の方
- ゼラチンアレルギーのある方
日本では注射ワクチンのほうが長い使用実績があり、フルミストはまだ新しい選択肢です。注射でもフルミストでも、打たないよりは打った方がはるかに良いというのが最も大切なメッセージです。お子さんの年齢や状態に合わせて、かかりつけの先生と相談して選んでくださいね。
ポイント フルミスト(経鼻ワクチン)は「針なし・1回で完了」というメリットがあり、鼻の粘膜免疫(IgA)も誘導できます。ただし弱毒生ワクチンのため、2歳未満、免疫不全、喘息のあるお子さんには使えません。注射でもフルミストでも、接種すること自体が大切です。
Q3. ワクチンはいつ打つのがベストですか?2回必要ですか?
お母さん: 「毎年いつ打てばいいか悩みます。早く打つと効果が切れると聞いたこともあるのですが…。それと、うちの子は7歳ですが、2回打つ必要がありますか?」
おかもん先生: とても実用的なご質問ですね。タイミングと回数、どちらも大切なポイントです。
まず接種時期についてです。日本ではインフルエンザの流行は例年12月~3月がピークで、1月~2月に最も患者数が多くなります。ワクチンは接種後、免疫が十分につくまでに約2週間かかります [4]。そのため、流行前に免疫を確立させるには10月~11月の接種が理想的です。
ACIPのガイドラインでも、10月末までの接種を推奨しつつ、流行が続いている限りはそれ以降の接種も有益であるとしています [4]。ワクチンの効果は接種後約5~6か月間持続しますので、10月に接種すれば流行シーズンの3月頃まで効果が期待できます [4]。
「早く打つと効果が切れる」というご心配については、確かにシーズン後半にやや免疫が低下するというデータはありますが、それでも接種しないよりはるかに良い防御効果があります。接種が遅れて流行期に入ってしまうリスクの方が大きいため、適切な時期(10月~11月)に打つことをお勧めします [4]。
次に接種回数についてです。日本では以下のようになっています:
接種回数
- 生後6か月~13歳未満
- 2回
- 13歳以上
- 1回(または2回)
接種間隔
- 生後6か月~13歳未満
- 2~4週間(できれば4週間)
- 13歳以上
- ー
お子さんは7歳とのことですので、2回接種が必要です。
ACIPも、生後6か月~8歳のお子さんで過去にインフルエンザワクチンを2回以上接種したことがない場合は2回接種を推奨しています [4]。小さなお子さんは免疫系がまだ未熟で、1回の接種だけでは十分な免疫応答が得られないことがあるためです [9]。2回目の接種(ブースター)により、抗体価が有意に上昇することが示されています [9]。
2回接種の場合のスケジュール例:
- 1回目:10月前半
- 2回目:10月後半~11月前半(1回目から2~4週間後)
こうすれば、11月中には十分な免疫がつき、12月からの流行期に備えることができます。
ポイント ワクチン接種のベストタイミングは10月~11月です。13歳未満のお子さんは2回接種が必要で、2~4週間の間隔をあけます。接種後2週間で免疫がつきますので、流行前の早めの接種を心がけましょう。
Q4. 卵アレルギーがあるのですが、打てますか?
お母さん: 「うちの子は卵アレルギーがあります。インフルエンザワクチンは卵を使って作ると聞いたのですが、接種しても大丈夫ですか?」
おかもん先生: 卵アレルギーのお子さんをお持ちのお母さんにとって、これはとても気になる問題ですよね。結論から申し上げますと、卵アレルギーがあっても、ほとんどの場合インフルエンザワクチンは安全に接種できます。
確かに、インフルエンザワクチンの多くは製造過程で鶏卵(有精卵)を使用しています。そのため、ワクチンにはごく微量の卵タンパク(オバルブミンという卵白に含まれるタンパク質)が残留しています。しかし、現在の製造技術により、その含有量は非常に少なく、1回の接種量あたり1μg未満(多くは0.1μg以下)です [4][10]。
この点について、米国のACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)とAAP(米国小児科学会)は、近年ガイドラインを大きく変更しました。2023-24シーズン以降のACIPガイドラインでは、卵アレルギーの重症度にかかわらず、年齢に適したインフルエンザワクチンを通常の医療環境で接種してよいとしています [4]。
この推奨の根拠となったのは、複数の大規模研究です。卵アレルギー(アナフィラキシー(重篤な全身性アレルギー反応)の既往を含む)のある患者数千人を対象とした研究で、不活化インフルエンザワクチン接種後の重篤なアレルギー反応の発生率は、卵アレルギーのない集団と差がなかったことが示されています [10][11]。
具体的には、McNeilらによるワクチン安全性データベースの大規模解析において、インフルエンザワクチン接種後のアナフィラキシー発生率は100万回接種あたり約1.3件であり、これは一般集団における他のワクチン後アナフィラキシーの発生率と同等でした [10][11][15]。
以前は「卵アレルギーのある方は接種前に皮膚テストを」「30分以上経過観察を」などの特別な対応が推奨されていましたが、現在のACIPガイドラインではこれらの追加的な安全措置は不要とされています [4]。
ただし注意が必要なのは、「卵アレルギー」ではなく「ワクチンそのものへのアレルギー」です。 過去にインフルエンザワクチン接種後にアナフィラキシーを起こしたことがある場合は、そのワクチンの接種は禁忌です [4]。これは卵成分に限らず、ワクチンに含まれるいずれかの成分に対する反応の可能性があるためです。
日本でも、日本小児アレルギー学会が卵アレルギー患者へのインフルエンザワクチン接種について、多くの場合安全に接種可能であるとの見解を示しています。かかりつけの先生にアレルギーの程度をお伝えのうえ、安心して相談してくださいね。
ポイント 卵アレルギーがあっても、現在のガイドラインではインフルエンザワクチンは通常通り接種できます。現代のワクチンに含まれる卵タンパクはごく微量で、重篤なアレルギー反応のリスクは一般集団と変わりません。ただし、過去にインフルエンザワクチン自体でアナフィラキシーを起こした方は接種できません。
Q5. 今年から三価ワクチンになったと聞きましたが、大丈夫ですか?
お母さん: 「これまで4種類のウイルスに対応していたワクチンが3種類に減ったと聞きました。防御力が下がったということですか?」
おかもん先生: とても鋭いご質問です。ご心配になるのも当然ですが、結論から言うと、三価ワクチンへの移行は防御力が下がったのではなく、科学的根拠に基づいた合理的な変更です。
まず背景をご説明します。インフルエンザウイルスにはA型とB型があり、B型にはさらに山形系統(B/Yamagata)とビクトリア系統(B/Victoria)の2つの系統がありました。これまでのワクチンは、A型2種類+B型2系統の計4種類に対応する「四価ワクチン」でした。
ところが、B/山形系統は2020年3月以降、世界中で検出されなくなりました [12][13]。COVID-19パンデミックに伴う感染対策(マスク着用、渡航制限、社会的距離の確保など)が、もともと流行規模が小さかったB/山形系統の伝播を完全に断ち切ったと考えられています [12]。
Cainiらが2024年にLancet Microbe誌に発表した系統的レビューでは、世界中のインフルエンザサーベイランスデータを分析し、B/山形系統は事実上絶滅した(probable extinction)と結論づけています [12]。2020年3月以降、全世界で数百万件の検体が検査されましたが、B/山形系統は一例も確認されていません。
MontoとZambonも2024年にNew England Journal of Medicine誌のEditorialで、B/山形系統のヒトでの伝播は終焉を迎えたと述べ、三価ワクチンへの移行を支持しています [13]。
これを受けて、WHOは2024年9月に2025年南半球シーズンのワクチン推奨株からB/山形系統を除外し、三価ワクチンへの移行を推奨しました [14]。米国FDAも2024年に同様の決定を行い、日本でもこれに準じた対応が進められています。
もう存在しないウイルスに対するワクチン成分を入れ続けることは、科学的に意味がないだけでなく、理論上のリスクもあります。弱毒生ワクチン(フルミスト)の場合、ワクチンに含まれるB/山形系統のウイルスが自然界に再導入される可能性が指摘されていました [12][13]。三価への移行は、こうしたリスクを排除する意味でも合理的です。
ですから、「4つが3つに減った」というよりも、「もう存在しないウイルスへの対策が不要になったので、必要な3つに集中するようになった」とお考えください。A型2種類(H1N1とH3N2)とB型ビクトリア系統の3つに対して、しっかり防御してくれます。
ポイント 四価から三価への変更は、B/山形系統が2020年以降世界中で検出されなくなった(事実上の絶滅)ことに基づく科学的に合理的な判断です。防御力が下がったわけではなく、現在流行しているウイルスに対する防御は変わりません。安心して接種してください。
まとめ
今回のおかもんだよりでは、インフルエンザワクチンについて5つのよくある疑問にお答えしました。大切なポイントを整理します。
- 2
ワクチンは「重症化予防」が最大の価値:発症予防効果は40~60%ですが、入院や重症合併症を大幅に減らします。打ってもかかることはありますが、「打つ意味」は十分にあります。
- 4
フルミストは新しい選択肢:針なし・鼻スプレーで粘膜免疫も誘導できますが、弱毒生ワクチンのため使えない方もいます。注射でもフルミストでも、接種すること自体が大切です。
- 6
10月~11月の接種がベスト:13歳未満は2回接種が必要です。2~4週間間隔で、流行前に免疫を確立させましょう。
- 8
卵アレルギーでも接種できます:現在のガイドラインでは、卵アレルギーはインフルエンザワクチンの禁忌ではありません。安心してかかりつけ医にご相談ください。
- 10
三価ワクチンは「進化」です:B/山形系統の絶滅により、四価から三価への移行は合理的な判断です。防御力は変わりません。
インフルエンザワクチンは、お子さんを守るための最も効果的な予防手段の一つです。毎年の接種を、ぜひ「秋の恒例行事」にしてくださいね。
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