愛育病院 小児科おかもん だより Vol.16
「RSウイルスに新しい予防薬?」、シナジスとベイフォータスの違いを整理します
今号のポイント
- 2RSウイルスはほぼ全員がかかるが、ほとんどの子は風邪程度で自然に回復する
- 4新薬ベイフォータスは1回の注射で約5ヶ月以上効果が持続し、全ての乳児が対象
- 6日常の感染対策(手洗い・消毒・受動喫煙の回避)も引き続き大切
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
今回のテーマはRSウイルス(RSV)と、その予防薬です。
まず安心していただきたいのは、RSウイルスに感染しても、ほとんどのお子さんは風邪程度の症状で自然に回復するということです。 RSウイルスは、2歳までにほぼ100%のお子さんが感染するウイルスですが、多くの場合は軽い症状で済みます。ただし、特に生後6ヶ月未満の赤ちゃんでは重症化して入院が必要になることがあります。
最近、RSウイルスの予防に新しい選択肢(ベイフォータス)が登場しました。今号では、従来のシナジスとの違いも含めて整理します。
Q1.「RSウイルスってそんなに怖いんですか? 聞いたことはあるけど……」
——保育園で『RSが流行っています』ってお知らせが来ましたが、普通の風邪とは違うんですか?
RSウイルスは、乳幼児が入院する原因として世界的に最も多い呼吸器ウイルスです [1]。年長児や大人では鼻水・咳程度で終わることが多いのですが、生後6ヶ月未満の赤ちゃんでは気管支の奥まで炎症が広がりやすく、細気管支炎(気管支の一番奥の細い部分の炎症)や肺炎を起こして入院が必要になることがあります [1]
——なぜ赤ちゃんは重症化しやすいんですか?
赤ちゃんの気道(空気の通り道)は大人と比べてはるかに細く、断面積でいうと約16分の1程度しかありません。気管支の壁が少し腫れただけで、空気の通り道が大きく狭くなってしまうんです。さらに、RSウイルスは感染すると大量の粘液(痰)を分泌させるため、狭い気道が腫れ+痰のダブルパンチで詰まりやすくなります。ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音や、陥没呼吸(息を吸うときに肋骨の下や鎖骨の上がペコペコへこむ、苦しいサインの呼吸)が見られたら、すぐに受診してください
——どのくらいの割合で入院するんですか?
RSウイルスに感染した乳児のうち、約1〜3%が入院を必要とするとされています [1]。絶対数で見ると、日本だけでも毎年約12〜14万人の2歳未満の乳幼児がRSウイルスで受診し、そのうち約1〜3万人が入院するという推計があります [2]
ポイント
- RSウイルスは乳幼児の入院原因として世界最多の呼吸器ウイルス [1]
- 生後6ヶ月未満が最も重症化しやすい [1]
- 受診サイン:ゼーゼー音、陥没呼吸、哺乳力の低下
Q2.「シナジスって何ですか? 聞いたことがあるのですが」
——友達の赤ちゃんが早産で生まれて、毎月『シナジス』という注射を打ちに病院に通っていたんですが、あれは何ですか?
シナジス(一般名:パリビズマブ)は、RSウイルスに対するモノクローナル抗体(ウイルスをピンポイントでブロックするために人工的に作られた抗体)です [3]。ワクチンとは違って、お子さん自身に免疫をつけるのではなく、外からRSウイルスをブロックする抗体を直接注射する薬です
——ワクチンとは違うんですね。どんな子が対象なんですか?
シナジスが保険適用になるのは、重症化リスクの高いお子さんです。具体的には [3]
- 在胎28週以下の早産児(生後12ヶ月以下)
- 在胎29〜35週の早産児(生後6ヶ月以下)
- 先天性心疾患のあるお子さん(生後24ヶ月以下)
- 慢性肺疾患のあるお子さん(生後24ヶ月以下)
- ダウン症候群のお子さん(生後24ヶ月以下)
- 免疫不全のお子さん
投与方法はRSウイルスの流行シーズン中(通常9月〜3月頃)に毎月1回、筋肉注射です [3]。抗体の効果は約1ヶ月で半減するため、シーズン中ずっと守るには毎月の通院が必要なんです
——毎月の通院……。お母さん大変ですよね
はい。そこが長年の課題でした。そして、この課題を解決する新しい薬が登場したんです
ポイント
- シナジスはRSウイルスの抗体を直接注射する予防薬 [3]
- 重症化リスクの高い子(早産児、先天性心疾患、ダウン症候群など)が対象 [3]
- 毎月1回の注射が必要(シーズン中5〜6回)
Q3.「ベイフォータスとシナジスは何が違うんですか?」
——最近『ベイフォータス』という新しい薬があると聞きました。シナジスとどう違うんですか?
ベイフォータス(一般名:ニルセビマブ)は、2024年3月に日本で承認され、5月から使えるようになった新しいRSウイルス予防薬です [4]。シナジスと同じくモノクローナル抗体ですが、決定的な違いは1回の注射で5ヶ月以上効くことです
シナジス
- 一般名
- パリビズマブ
- 投与回数
- 毎月1回
- 効果持続
- 約1ヶ月
- 対象
- 重症化リスクの高い子のみ
- 投与方法
- 筋肉注射
ベイフォータス
- 一般名
- ニルセビマブ
- 投与回数
- シーズンに1回
- 効果持続
- 約5ヶ月以上
- 対象
- 全ての乳児が対象
- 投与方法
- 筋肉注射
——1回で5ヶ月!? 全然違いますね。しかも「全ての乳児」が対象?
はい。これがベイフォータスの最大の革新です。シナジスは高リスク児にしか使えませんでしたが、ベイフォータスは初めてのRSウイルスシーズンを迎える全ての乳児に使える可能性がある薬として設計されました [4]。2023年に発表されたHARMONIE試験(ヨーロッパの大規模試験)では、健康な正期産児を含む8,058人の乳児を対象に、ベイフォータスを投与したグループではRSウイルスによる入院が83.2%減少したと報告されています [5]。さらに米国のリアルワールドデータでも同様の有効性が確認されています [6]
——83%も! 普通に生まれた赤ちゃんにも効くんですね
はい。高リスク児だけでなく、正期産で生まれた健康な赤ちゃんでもRSウイルスで重症化するケースがあります。むしろ絶対数で見ると、入院するRSウイルス患者の大半は基礎疾患のない正期産児です [1]。ベイフォータスは、この「守られていなかった大多数」を初めてカバーできる薬と言えます
ポイント
- ベイフォータスは1回の注射で約5ヶ月以上効果が持続 [4]
- 全ての乳児が対象(高リスク児に限らない)[4]
- 大規模試験でRSウイルスによる入院を83.2%減少 [5][6]
- RSウイルスで入院する子の大半は基礎疾患のない正期産児 [1]
Q4.「うちの子はどっちを受ければいいですか?」
——シナジスとベイフォータス、うちの子にはどっちが合っていますか?
現時点では以下のような使い分けが想定されています
ベイフォータスが適している場合:
- 初めてのRSウイルスシーズンを迎える全ての乳児
- 特に正期産で生まれた健康な赤ちゃん(これまで予防手段がなかった)
- シナジスの毎月通院が負担だったご家庭
シナジスが引き続き適している場合:
- 従来からシナジス対象だった高リスク児
- 医師がシナジスの継続を判断したケース
——費用はどうなるんですか?
シナジスは保険適用(対象児に限り)ですが、1回あたりの薬価が高く、シーズン全体で数十万円になります(自己負担は医療費助成制度で軽減されることが多い)。ベイフォータスについては、日本での保険適用の範囲や自己負担額は今後の運用で変わる可能性がありますので、具体的な費用はかかりつけ医にお問い合わせください
大切なのは、RSウイルスの予防に関して「選択肢が増えた」ということです。お子さんの状況に合わせて最適な方法を一緒に考えましょう
ポイント
- 正期産の健康な赤ちゃん → ベイフォータスが新たな選択肢 [4]
- 高リスク児 → シナジスまたはベイフォータス、医師と相談 [3][4]
- 費用や適用範囲はかかりつけ医に確認を
Q5.「予防薬以外に、家庭でできるRSウイルス対策はありますか?」
——予防薬はわかりましたが、日常生活でできる対策も知りたいです
予防薬はあくまで重症化を防ぐためのものです。日常の感染対策は引き続き大切ですよ
- 2手洗いの徹底: RSウイルスは接触感染が主な感染経路です [1]。外出先から帰った時、赤ちゃんに触れる前に、石けんでしっかり手を洗ってください
- 4咳エチケット: 上の子やご家族が風邪症状の場合はマスクを
- 6物品の消毒: RSウイルスは物の表面で数時間生存します [1]。おもちゃやドアノブなどをこまめに拭きましょう
- 8受動喫煙を避ける: タバコの煙に曝されるお子さんは、RSウイルスが重症化しやすいことが報告されています [7]
- 10混雑した場所を避ける: 流行期(秋〜春)は、生後数ヶ月の赤ちゃんを人混みに長時間連れ出すのを控えましょう
特に上のお子さんが保育園に通っている場合は、上の子がRSウイルスを持ち帰って赤ちゃんにうつすパターンが非常に多いです。上の子が鼻水・咳の症状がある時は、赤ちゃんとの距離感に少し気を配ってあげてくださいね
ポイント
- RSウイルスの主な感染経路は接触感染。手洗いが最重要 [1]
- 物の表面で数時間生存するため、おもちゃ等の消毒も有効 [1]
- 受動喫煙は重症化リスクを高める [7]
- 上の子からの家庭内感染パターンに注意
今号のまとめ
- RSウイルスは乳幼児の入院原因として最多。生後6ヶ月未満が最もリスクが高い [1]
- シナジスは従来からの予防薬。重症化リスクの高い子に毎月投与 [3]
- ベイフォータスは新しい予防薬。1回の注射で5ヶ月以上効果が持続し、全ての乳児が対象 [4][5][6]
- 日常の感染対策として手洗い・消毒・受動喫煙の回避が重要 [1][7]
- お子さんに最適な予防法はかかりつけ医と相談して決めましょう
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