愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.81
「ことばが詰まる、繰り返す……」、吃音についてのギモンに答えます
今号のポイント
- 2吃音は2〜5歳の約5%が経験する、珍しくない言語の症状。「連発」「伸発」「難発」の3タイプがある
- 4原因は神経発達・言語発達・遺伝など多因子が関与。「親の育て方」は関係ない
- 6約80%は自然に回復するが、6ヶ月以上の持続や二次症状がある場合は専門家への相談を
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「うちの子、"ぼ、ぼ、ぼくね"って、最初の音を繰り返すんです」「話そうとすると言葉が出てこなくて、苦しそうに見えます……」、こうしたご相談は、2〜3歳のお子さんを持つ保護者の方からよくいただきます。
これらは吃音(きつおん)と呼ばれる症状の可能性があります。吃音は決して珍しいものではなく、幼児期の約5%が経験するとされています [1][2]。今回は、吃音についての正しい知識と、ご家庭での対応法についてお伝えします。
Q1.「吃音って何ですか? どんな症状がありますか?」
——3歳の息子が、最近"マ、マ、ママ"と最初の音を繰り返すようになりました。"吃音かもしれない"と言われたのですが、吃音ってどういうものですか?
吃音とは、話す時にことばがスムーズに出てこない状態のことです [1][2]。本人は話したいのに、思い通りにことばが出てこない、これが吃音の本質です。いくつかのタイプがありますので、整理してみましょう
吃音の3つのタイプ(中核症状)[1][2][3]:
| タイプ | 名称 | 具体例 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 連発(繰り返し) | Repetition | 「ぼ、ぼ、ぼくね」「き、き、きのう」 | 音や音節を繰り返す。最も多い初発症状 |
| 伸発(引き伸ばし) | Prolongation | 「きーーのう」「ぼーーくね」 | 音を引き伸ばす |
| 難発(ブロック) | Block | 「……っぼくね」(最初の音が出ない) | ことばが詰まって出てこない。最も苦しい症状 |
お子さんの場合は"連発"のタイプですね。幼児期に最初に現れやすいのがこの連発です [1]。吃音は通常、2〜5歳の言語発達が急速に進む時期に発症します [2][3]
吃音の疫学データ [1][2][3][4]:
| 項目 | データ |
|---|---|
| 発症率(累積) | 幼児期の約5% [1][2] |
| 好発年齢 | 2〜5歳(特に2〜3歳半が多い) [2][3] |
| 平均発症年齢 | 約2歳8ヶ月〜3歳 [3] |
| 性差 | 幼児期は男女差が小さいが、持続例では男児に多い(男:女=3〜4:1) [2][4] |
| 有病率(ある時点で吃音がある人の割合) | 全人口の約0.7〜1% [1] |
——5%もいるんですね。うちの子だけかと思っていました
20人に1人の計算ですから、保育園のクラスに1〜2人はいてもおかしくない頻度です [2]。吃音は決してまれな症状ではないということを、まず知っていただきたいです
ポイント
- 吃音には連発・伸発・難発の3タイプがある [1][2]
- 2〜5歳に発症することが多く、約5%の子どもが経験する [1][2][3]
- 最初に現れやすいのは連発(音の繰り返し) [1]
- 吃音は珍しくない。保育園のクラスに1〜2人いてもおかしくない
Q2.「吃音の原因は何ですか? 私の育て方が悪かったんでしょうか……」
——吃音って、ストレスとか親の接し方が原因なんでしょうか。最近忙しくて、あまりゆっくり子どもの話を聞いてあげられていなくて……自分のせいかもしれないと思うと辛いです
これは最も大切なことですのではっきりお伝えします。吃音は"親の育て方"や"愛情不足"が原因ではありません[2][5]。かつてはそのように言われた時代もありましたが、現在の医学では明確に否定されています [5]
吃音は、複数の要因が組み合わさって発症する多因子性の疾患です [2][5][6]。現在の研究で示されている主な要因をご説明しますね
吃音の発症に関与する要因 [2][5][6][7]:
内容
- 神経発達的要因
- 言語の計画・実行に関わる脳領域(左半球の言語野、基底核、補足運動野など)の発達的な違い [5][6]
- 言語発達の急速な進行
- 語彙や文法が急速に発達する時期に、言語の「需要」と「供給」のバランスが崩れる [2]
- 遺伝的要因
- 家族内集積がある。一卵性双生児の一致率は約70% [7]
- 運動制御の要因
- 発話に必要な口唇・舌・声帯の微細な運動協調の未熟さ [6]
- 気質・性格
- 不安が高い、刺激に敏感、完璧主義的な気質が悪化因子になりうる [5]
エビデンス
- 神経発達的要因
- 脳画像研究で確認
- 言語発達の急速な進行
- 発症時期と一致
- 遺伝的要因
- ゲノム研究で関連遺伝子同定
- 運動制御の要因
- 音声分析研究
- 気質・性格
- 気質研究
イメージとしては、脳の"言語を組み立てる部分"と"それを口で話す部分"の連携がうまくいかない状態です [5][6]。自動車に例えると、エンジン(言語計画)とトランスミッション(運動実行)の連携がスムーズでないような状態です
「原因ではない」もの [2][5]:
| よくある誤解 | 事実 |
|---|---|
| 「親の育て方が悪い」 | 関係なし。多因子性の神経発達的問題 [5] |
| 「愛情不足」 | 関係なし [5] |
| 「緊張しやすい性格だから」 | 緊張は悪化因子にはなるが原因ではない [5] |
| 「真似をした」 | 吃音は模倣では発症しない [2] |
| 「英語と日本語の両方を教えたから」 | バイリンガル環境は吃音の原因にはならない(ただし評価には配慮が必要)[8] |
| 「トラウマやショックな出来事」 | 大多数の吃音はトラウマとは無関係 [5] |
——育て方のせいじゃないと聞いて、少し気持ちが楽になりました……
吃音の研究は非常に進んでおり、脳の発達に関わる問題であることは国際的なコンセンサスです [5][6]。お母さんが忙しいこと、ゆっくり話を聞けないことは、吃音の原因にはなりません。自分を責めないでください
ポイント
- 吃音は多因子性の疾患。神経発達・言語発達・遺伝・運動制御など複数の要因が関与 [2][5][6]
- 「親の育て方」「愛情不足」「ストレス」は原因ではない [5]
- 脳の言語を組み立てる部分と話す部分の連携の問題 [5][6]
- 遺伝的要因あり。一卵性双生児の一致率は約70% [7]
Q3.「自然に治るんですか? ずっと続くこともあるんですか?」
——ネットで"吃音は自然に治る"と書いてあったのですが、本当ですか? 逆に、"一生治らない"とも書いてあって……。どちらが正しいんでしょうか
これはとても良い質問です。結論から言うと、約80%の子どもは自然に回復します [1][2][9]。ただし、残りの約20%は持続する可能性があります。大切なのは、"どの子が自然に回復しやすいか"を知っておくことです
吃音の自然回復に関するデータ [1][2][9]:
| 項目 | データ |
|---|---|
| 自然回復率 | 発症した子どもの約74〜80% [1][2][9] |
| 回復の多くが起こる時期 | 発症から6ヶ月〜2年以内 [9] |
| 発症1年以内の回復 | 約50%が1年以内に回復 [9] |
| 女児の回復率 | 男児より有意に高い [2][9] |
| 持続(慢性化)する割合 | 約20〜26% [1][2] |
"自然回復しやすい"お子さんには、いくつかの特徴があります
自然回復しやすい要因とリスク因子 [2][9][10]:
| 回復しやすい要因 | 持続しやすいリスク因子 |
|---|---|
| 女児である [2][9] | 男児である [2] |
| 発症から1年未満 [9] | 発症から1年以上経過 [9] |
| 3歳半までに発症 [9] | 3歳半以降に発症 [9] |
| 吃音の家族歴で回復した人がいる [10] | 吃音の家族歴で持続した人がいる [10] |
| 言語発達が年齢相応以上 [2] | 言語発達に遅れがある [2] |
| 症状が軽減傾向にある [9] | 症状が悪化傾向にある [9] |
| 連発が主体 [2] | 難発(ブロック)が目立つ [2] |
——うちは3歳の男の子で、始まってまだ2ヶ月くらいです。今の時点ではどうなんでしょう?
発症から2ヶ月であれば、自然回復する可能性は十分にあります [9]。ただし、男児であることは持続のリスク因子の一つですので、経過を注意深く見守ることが大切です。3〜6ヶ月経っても改善傾向がなければ、言語聴覚士(ST)への相談をおすすめします [2][10]
ポイント
- 吃音を発症した子どもの約80%は自然に回復する [1][2][9]
- 回復の多くは発症から6ヶ月〜2年以内に起こる [9]
- 女児・発症1年未満・連発主体は回復しやすい傾向 [2][9]
- 男児・発症1年以上・難発の出現は持続のリスク因子 [2][9]
- 3〜6ヶ月改善がなければ専門家への相談を [10]
Q4.「家でどう対応すればいいですか? "ゆっくり話して"と言うのはダメですか?」
——吃音が出るたびに、つい"ゆっくり話してごらん"とか"深呼吸して"と言ってしまうんですが……。あと、うまく言えなかった時に"もう一回言ってみて"と言い直しをさせることもあります。これってどうなんでしょう?
お気持ちはとてもよくわかります。でも、実は"ゆっくり話して""もう一回言って"という声かけは、吃音に対しては逆効果になることが多いのです [2][11][12]
やってはいけない対応とその理由 [2][11][12]:
| やってはいけない対応 | なぜダメなのか |
|---|---|
| 「ゆっくり話してごらん」 | "うまく話せていない"と意識させ、話すことへの不安が増す [11] |
| 「深呼吸して」「落ち着いて」 | 吃音の原因は呼吸法ではない。本人が自分を"おかしい"と感じるきっかけに [11] |
| 「もう一回言ってみて」 | 言い直しの強制は失敗体験の繰り返しになる [12] |
| ことばを先取りして言ってしまう | 「自分では話せない」という無力感を与える [11] |
| 話している途中で遮る | 本人の話す意欲を削ぐ [12] |
| 困った顔・不安そうな表情をする | 非言語的に"問題だ"というメッセージを伝えてしまう [11] |
| 他のきょうだいや家族の前で話題にする | 羞恥心を高め、話すことを避けるようになる [12] |
では、どう対応すればよいか。大切なのは"話し方"ではなく"話の内容"に注目することです [11][12]
家庭でできる正しい対応 [2][11][12][13]:
| 対応 | 具体的に |
|---|---|
| 最後まで聞く | 吃音が出ても、焦らず最後まで聞く。途中で遮らない [11] |
| 話の内容に反応する | 「そうなんだ、楽しかったんだね!」と内容に共感 [11] |
| ゆっくりした話し方の"モデル"を見せる | 子どもに「ゆっくり話して」と言うのではなく、親が自らゆっくり話す [12][13] |
| 間(ま)を大切にする | 子どもが話し終わった後、1〜2秒待ってから応答する [12] |
| 1対1の時間を作る | 1日5〜10分、お子さんとゆったり向き合う時間を確保 [13] |
| 質問攻めにしない | 「今日何したの?」「誰と遊んだの?」と矢継ぎ早に聞かない [12] |
| 話す"圧"を減らす | 発表や音読など、話すプレッシャーがかかる場面を一時的に軽減 [11] |
Lidcombeプログラムの考え方 [13]:
エビデンスのある早期介入プログラムとして、Lidcombe(リッカム)プログラムがあります [13]。これはオーストラリアで開発された手法で、なめらかに話せた時に自然に"上手に言えたね"と声をかける一方、吃音が出た時には基本的に触れないというアプローチです。ただし、このプログラムは言語聴覚士の指導のもとで行うものですので、自己流で行わないようにしてください
| Lidcombeプログラムの基本 [13] | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 6歳未満の幼児 |
| 原理 | なめらかな発話への正の強化 |
| なめらかに話せた時 | 「上手に言えたね」と自然に声かけ(5回に1回程度) |
| 吃音が出た時 | 基本的に触れない(注目しない) |
| 実施方法 | STの指導のもと、親が家庭で行う |
| エビデンス | RCTで有効性が確認されている [13] |
——"ゆっくり話して"って、良かれと思って言っていたんですが……。これからは聞き方を変えてみます
今日から変えられることばかりですので、ぜひ試してみてください。お子さんが"話すことは楽しい""自分の話を聞いてもらえる"と感じられる環境が、何よりの支えになります [11][12]
ポイント
- 「ゆっくり話して」「もう一回言って」は逆効果。吃音への意識を高めてしまう [11][12]
- 話し方ではなく話の内容に注目して反応する [11]
- 親自身がゆっくり話すモデルを見せる(言葉で指示しない) [12][13]
- 吃音が出ても最後まで聞き、焦らない [11]
- LidcombeプログラムはST指導のもとで行う早期介入法 [13]
Q5.「病院に行ったほうがいいのはどんなときですか?」
——自然に治ることが多いとのことですが、どんな時に病院に行くべきですか? 受診のタイミングが分かりません
良い質問です。"まずは経過を見る"というのが基本姿勢ですが、以下のような場合は、小児科や言語聴覚士(ST)への相談をおすすめします [2][10][14]
受診・STへの相談が望ましい目安 [2][10][14]:
| 状況 | 理由 |
|---|---|
| 吃音が6ヶ月以上続いている | 自然回復の可能性が低下し始める [9][10] |
| 症状が悪化傾向にある | 連発→伸発→難発へと進行している場合 [2] |
| 難発(ブロック)が目立つ | 難発は持続のリスク因子 [2] |
| 二次症状が出ている | 目をつぶる、足を踏む、手を振るなど、ことばを出すための随伴運動 [2][14] |
| 本人が話すことを嫌がる・避ける | 心理的影響が出始めているサイン [14] |
| 「ぼく、上手に話せない」と言う | 自己認識と否定的感情の表れ [14] |
| 登園・登校を嫌がる | 社会的場面での回避行動 [14] |
| 家族に吃音が持続した人がいる | 持続のリスク因子 [10] |
| 3歳半以降に発症した | 自然回復率がやや低い [9] |
| 保護者が非常に不安を感じている | 専門家からの情報提供で安心できる |
特に注意していただきたいのが"二次症状"です。これは、ことばが出にくい時に、体の動きで助けようとする反応です [2][14]
吃音の二次症状の例 [2][14]:
| 二次症状 | 具体例 |
|---|---|
| 随伴運動 | 目をギュッとつぶる、足を踏みならす、手を振る、首を前に突き出す |
| 回避行動 | 話す場面を避ける、言いにくいことばを別のことばに言い換える |
| 心理的反応 | 話すことへの不安、恥ずかしさ、自己肯定感の低下 |
二次症状が出ているということは、お子さん自身が吃音を"困ったもの"として意識し始めているサインです [14]。この段階では、専門家の支援が有効です
言語聴覚士(ST)の相談で得られること [10][14]:
| 内容 | 具体的に |
|---|---|
| 正確な評価 | 吃音の重症度・タイプ・頻度を客観的に評価 |
| 予後予測 | 自然回復の可能性がどの程度かを判断 |
| 家庭での対応指導 | 効果的な声かけ・環境調整のアドバイス |
| 直接介入 | 必要に応じてLidcombeプログラムなどの実施 [13] |
| 園・学校との連携 | 先生への説明・配慮のお願い |
| 保護者の不安軽減 | 正しい情報の提供と心理的サポート |
——どこに相談すればいいんですか?
まずはかかりつけの小児科にご相談ください。必要に応じて、吃音を専門とする言語聴覚士がいる医療機関や療育施設をご紹介します。地域の発達支援センターやことばの教室も相談先になります [10]。また、日本では国立障害者リハビリテーションセンターが吃音の専門的な情報を提供しています
——ありがとうございます。まずは家での対応を見直しつつ、経過を見て、必要なら相談に来ますね
はい、それが素晴らしい対応です。吃音は焦らず、しかし見過ごさず。この2つのバランスが大切です [2]
ポイント
- 6ヶ月以上持続する場合はSTへの相談を検討 [9][10]
- 二次症状(目をつぶる、足を踏むなど)は早めの相談のサイン [2][14]
- 本人が話すことを嫌がる・避ける場合も受診を [14]
- 家族歴で吃音が持続した人がいる場合はリスク因子 [10]
- まずはかかりつけの小児科から。発達支援センターやことばの教室も相談先
まとめ
- 吃音は2〜5歳の約5%が経験する、決して珍しくない言語の症状。連発・伸発・難発の3タイプがある [1][2][3]
- 原因は神経発達・言語発達・遺伝など多因子が関与。「親の育て方」や「愛情不足」は原因ではない [2][5][6]
- 約80%は自然に回復する。特に発症1年以内、女児、連発主体の場合は回復しやすい [1][2][9]
- 「ゆっくり話して」「もう一回言って」は逆効果。親自身がゆっくり話すモデルを見せ、話の内容に反応する [11][12]
- 6ヶ月以上の持続、二次症状(随伴運動)、本人の回避行動がある場合は専門家への相談を [2][10][14]
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