愛育病院 小児科おかもん だより Vol.470
子どもの嘔吐、脱水と受診のサイン、水分の与え方と「緑色の吐物」の意味
今号のポイント
- 2吐いた直後は5〜10分待ってから、ORSをスプーン1杯(5mL)ずつ5分ごとに再開する
- 4脱水は「乳児で3時間、年長児で8時間おしっこが出ない」を目安に受診を判断する
- 6緑色の吐物は腸回転異常・腸閉塞を意味することがあり、すぐに救急受診が必要なサイン
こんにちは。愛育病院小児科のおかもんです。
「吐いた後、すぐに水を飲ませていいの?」「脱水ってどう見分けるの?」「緑色の吐物が出た、救急に行くべき?」嘔吐は子育て中に何度も直面するシーンです。しかし、その判断はいつも迷うものですね。
今号では、嘔吐した後の水分の与え方、脱水のサインの具体的な見方、そして「これは救急」というサインを整理します。胃腸炎の家庭ケア全般については感染性胃腸炎のホームケア完全ガイドにまとめていますので、こちらと合わせて読んでみてください。
Q1: 吐いた後、水分はいつ、どうやって与えればいいですか?
夜中に子どもが嘔吐しました。すぐに水を飲ませたほうがいいですか?それとも待ったほうがいい?
嘔吐した直後の胃はとても敏感な状態なので、吐いてすぐに飲ませると再び吐いてしまうことがほとんどです。まず5〜10分間は何も与えず、胃を落ち着かせる時間を作ってください [1]。
再開するときは、少量ずつがポイントです。
スプーン1杯(5mL)を5分おきに与えます。これを30分〜1時間続けて、吐かなければ少しずつ量を増やしていきます。ESPGHAN(欧州小児消化器栄養学会)の2014年ガイドラインでは、軽〜中等度の脱水に対して3〜4時間で体重1kgあたり50〜100mLを目標に補給することを推奨しています [1]。
飲み物の選択も大切なのです。
第一選択は経口補水液(ORS)です。OS-1(ナトリウム50mEq/L、浸透圧270mOsm/L)が脱水補正向け、アクアライトORS(ナトリウム20mEq/L、カリウム35mEq/L、浸透圧200mOsm/L)は軽症維持・予防向けと、目的が分かれます [2]。中等度以上の脱水ではOS-1のほうが補正力があります。スポーツドリンクは糖分が多く、電解質が少ないため脱水の補正には向きません。
WHO/ESPGHANは低浸透圧ORS(Na 75 mmol/L、浸透圧245mOsm/L)を急性下痢症治療の第一選択として推奨しています [1]。
麦茶や白湯も緊急時の代替にはなりますが、電解質が入っていないため、本格的な脱水治療にはなりません。
母乳については、継続して問題ありません。無理に経口補水液に切り替える必要はないのです [1]。
食事の再開も早くて大丈夫です。ESPGHANガイドラインでは、水分が摂れるようになったら通常食に早期に戻すことを強く推奨しています [1]。「バナナ、お米、りんごジュース、トースト(BRATダイエット)だけ与える」というやり方は古くなっており、現在は制限しすぎないほうがよいとされています。
Q2: 脱水のサインはどうやって見分ければいいですか?
子どもが吐いたとき、脱水かどうかが一番心配です。病院で使うような評価方法はありますか?
救急の現場では「Clinical Dehydration Scale(CDS)」という4項目の評価ツールをよく使います [3]。ご家庭でも観察の参考になるのです。
4項目(それぞれ0〜2点):
一般状態(機嫌・ぐったり感)、目のくぼみ、口腔内の湿り気(粘膜・涙)、涙の量です。
合計0点は脱水なし、1〜4点は軽度、5〜8点は中等度〜重度と判定します。外部検証の研究でも、このスコアが救急での輸液必要性やER滞在時間と関連することが確認されています [4]。
ご家庭での確認ポイントを挙げます。
おしっこの量と間隔が最も重要なサインです。乳児(ざっくり1歳未満)では6時間以上、年長児では8時間以上尿が出ない場合は受診の目安になります [5]。さらに、いつもの半分以下しか哺乳・水分が取れない時間が続く場合も同様です。
泣いているのに涙が出ない、口の中がカサカサ・べたべたしている、ぐったりして反応が鈍いといったサインも脱水を示します。
目のくぼみは中等度以上の脱水になって初めて出てくるサインですので、これが出ているときはかなり進んでいます。皮膚をつまんでもなかなか戻らない(ツルゴール低下)も中等度脱水のサインですが、皮下脂肪の多い赤ちゃんでは偽陰性になりやすいことも覚えておいてください [5]。
機嫌が悪くても、時々笑顔が見えて、水分が少しずつでも摂れていて、おしっこが出ているなら、ご家庭での経過観察を続けて翌朝受診で大丈夫なことがほとんどです。
Q3: 緑色の吐物が出ました。いちごジャム便はいつ救急に行くべきサインですか?
昨日から吐いていた子が、突然緑色の液体を吐き出しました。今すぐ救急に行くべきですか?
はい、緑色の吐物(胆汁性嘔吐)は、すぐに救急受診を判断するサインです。
緑色は胆汁の色です。胆汁は十二指腸以下で分泌されますので、緑色の吐物は小腸以下に何らかの閉塞がある可能性を示します。腸回転異常(malrotation)に伴う中腸軸捻転(volvulus)は、発症から数時間で腸が壊死に至る救急疾患です。各国ガイドラインで「胆汁性嘔吐」は緊急受診サインの代表例として扱われます [1][5]。とくに反復する大量の緑色嘔吐、または腹部膨満や元気がないことを伴う緑色嘔吐は、「胃腸炎だろう」と自己判断せず、まず救急に向かってください。
「いちごジャム便」については、腸重積を連想される方が多いのです。ただし、これは実は晩期サインなのです。Long Bらの2025年レビューでは、いちごジャム便の古典的三徴(間欠的腹痛・いちごジャム便・腸のしこり)は晩期所見であり、初期に気づくべきサインは「機嫌の波」「嘔吐」「ぐったりしている時間がある」だと指摘されています [6]。3か月〜5歳の子が、泣いたり元気になったりを繰り返している、突然大泣きして少し落ち着くを繰り返しているという場合は腸重積を疑う必要があります。
他に見落としやすい重大な原因があります。2025年の日本小児科学会全国調査では、初診時に「胃腸炎」と診断されたが最終診断が虫垂炎・脳炎・腸重積だったケースが多数報告されています。転帰不良に関わった疾患としては脳炎・脳症、心筋炎、精巣捻転(男児の場合)が挙げられています [7]。
生後2〜8週の男の子の場合、噴水のような勢いで吐く(噴水状嘔吐)、吐いても空腹そうにすぐ飲もうとするという場合は、肥厚性幽門狭窄を疑います。胆汁を含まない非胆汁性嘔吐が特徴で、エコー検査で診断できます。生後12週までにほぼ全例が発症します。
すぐに救急受診が必要なサインをまとめます。
緑色の吐物(胆汁性嘔吐)、血便・血性嘔吐、意識レベルの低下・呼びかけに反応しない、けいれん、激しい腹痛が持続する、機嫌の波を繰り返す(腸重積の疑い)、3か月未満の発熱合併、乳児での3時間以上の無尿、年長児での8時間以上の無尿。
迷ったときは小児救急電話相談(#8000)に電話してください。