愛育病院 小児科おかもん だより Vol.325
「抗ヒスタミン薬で学力低下?」、"気づかない鎮静"の落とし穴
今号のポイント
- 2第一世代抗ヒスタミン薬は脳に移行しやすく"気づかない学力低下"を起こします
- 4第二世代抗ヒスタミン薬(アレグラ・クラリチン等)は中枢への影響が少ない選択肢です
- 6市販の風邪薬にも第一世代抗ヒスタミン薬が含まれていることがあり注意が必要です
こんにちは。愛育病院小児科のおかもんです。
花粉症やアレルギー性鼻炎のお子さんが増える季節です。アレルギーの薬として使われる抗ヒスタミン薬ですが、実は薬の種類によっては子どもの学業成績に影響を与える可能性があることをご存じでしょうか。今回は"気づかない学力低下"の正体と、正しい薬の選び方についてお話しします。
Q1. 抗ヒスタミン薬で学力が下がるって本当?
——アレルギーの薬で学力低下なんて初めて聞きました。本当ですか?
本当です。ただし、すべての抗ヒスタミン薬ではなく、"第一世代"と呼ばれる古いタイプの薬が問題です。代表的なものとしてポララミン(クロルフェニラミン)、レスタミン(ジフェンヒドラミン)、ペリアクチン(シプロヘプタジン)などがあります。アタラックス(ヒドロキシジン)も第一世代に含まれますが、小児の急性蕁麻疹ではガイドライン上は第二世代抗ヒスタミン薬が優先で、ヒドロキシジンのルーチン使用は推奨されていません。
第一世代抗ヒスタミン薬は血液脳関門を通過しやすく(中枢移行性が高い)、脳のヒスタミンH1受容体を50〜90%占拠します[1]。脳内のヒスタミンは覚醒・注意力・学習に重要な役割を果たしているため、これがブロックされると眠気、注意力低下、認知機能の低下が起こります。
重要なのは、この影響は本人が眠気を自覚していなくても起こるということです。これを"impaired performance"(気づかない機能低下)と呼びます[2]。」
ポイント 第一世代抗ヒスタミン薬は脳に作用し、本人が気づかないまま注意力・学習能力を低下させます。
Q2. 第一世代と第二世代、何が違うの?
お父さん「第一世代と第二世代の違いを教えてください。」
大きな違いは脳への移行しやすさ(中枢移行性)です。
第一世代
- 代表的な薬
- ポララミン、レスタミン、ペリアクチン
- 脳内H1受容体占拠率
- 50〜90%
- 眠気
- 強い
- 学習への影響
- あり(impaired learning)
- 持続時間
- 短い(4〜6時間)
- 抗コリン作用
- あり(口渇、便秘等)
第二世代
- 代表的な薬
- アレグラ、クラリチン、アレロック、ザイザル
- 脳内H1受容体占拠率
- 0〜30%
- 眠気
- 少ない〜ほとんどなし
- 学習への影響
- 少ない
- 持続時間
- 長い(12〜24時間)
- 抗コリン作用
- ほとんどなし
第二世代の中でも特にフェキソフェナジン(アレグラ)とロラタジン(クラリチン)は脳内H1受容体占拠率がほぼ0%に近く、"non-sedating(非鎮静性)"に分類されます[3]。小児科でアレルギー治療に第二世代を選ぶのはこのためです。」
ポイント 第二世代抗ヒスタミン薬は脳への影響が少なく、特にアレグラ・クラリチンは非鎮静性です。
Q3. 市販の風邪薬にも入っているって聞きましたが…
——ドラッグストアで買える子ども用の風邪薬は大丈夫ですか?
ここが盲点なんです。市販の総合感冒薬(風邪薬)の多くに、第一世代抗ヒスタミン薬が含まれています。『鼻水を止める成分』として配合されているのですが、成分表をよく見るとクロルフェニラミン(ポララミンの成分)やジフェンヒドラミンが入っていることが少なくありません[4]。
具体的にチェックすべき成分名は以下の通りです。
- クロルフェニラミンマレイン酸塩(d-クロルフェニラミンを含む)
- ジフェンヒドラミン塩酸塩
- プロメタジン
- シプロヘプタジン(ペリアクチンの成分)
特にテスト期間中や大事な行事の前に、これらの成分が入った薬を飲ませてしまうと、お子さんのパフォーマンスに影響する可能性があります。風邪の鼻水には薬を使わず鼻吸引で対応する、あるいは第二世代の処方薬をかかりつけ医に相談するのが望ましいです。」
ポイント 市販の風邪薬の成分表を確認しましょう。「クロルフェニラミン」「ジフェンヒドラミン」は第一世代です。
Q4. 小児科ではなぜ第二世代を処方するの?
お父さん「なぜ第一世代はまだ使われているんですか? 全部第二世代にすればいいのでは?」
おっしゃる通りで、日本アレルギー学会のガイドラインでもアレルギー性鼻炎や蕁麻疹の治療には第二世代を第一選択とすることを推奨しています[5]。
しかし第一世代がまだ使われる理由としては、(1) 歴史が長く医師の処方慣れ、(2) 薬価が安い、(3) 即効性がある場面がある(急性蕁麻疹の注射薬など)、(4) 市販薬にはまだ第一世代が主流、といった背景があります。
小児科医が日常診療で第二世代を処方するのは、子どもの学習能力や日中のパフォーマンスを守るためです。特にお子さんの場合、自分の認知機能低下を自覚・言語化できないため、大人以上に薬の選択が重要になります。
かかりつけ医に『アレルギーの薬は第二世代でお願いします』と伝えるのも、お子さんを守る一つの方法です。」
ポイント 日本アレルギー学会も第二世代を推奨。子どもは自覚できない分、薬選びは大人が意識しましょう。
まとめ
- 第一世代抗ヒスタミン薬(ポララミン等)は脳に移行し"気づかない学力低下"を起こす
- 第二世代抗ヒスタミン薬(アレグラ・クラリチン等)は中枢への影響が少ない
- 市販の風邪薬には第一世代抗ヒスタミン薬が含まれていることが多い、成分表を確認
- アレルギー治療には第二世代が第一選択(日本アレルギー学会推奨)
- かかりつけ医に薬の種類を相談することが大切
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