愛育病院 小児科おかもん だより Vol.485
子どもの急性脳症の警告サイン、発熱・けいれん・意識の変化
今号のポイント
- 2急性脳症は年に数百例のレアな病気だが、初期症状が胃腸炎や上気道炎と紛らわしく見逃されやすい
- 4けいれん後30分以上意識が戻らない、意味不明な発語が続くなら迷わず119番を呼ぶ
- 6インフルエンザの熱にはアセトアミノフェンのみ。ジクロフェナクは死亡率を上げると複数の研究で確認
こんにちは。愛育病院小児科のおかもんです。
今号は急性脳症の話をします。
「急性脳症」という言葉、聞いたことがある方もいるかもしれません。インフルエンザの後に起こる脳の合併症として、ニュースになることがある病気です。
全国調査で毎年330〜350例ほど発生しています。保護者の方が一生のうちに直接目にすることは少ない疾患です。それでも今号でお伝えしたい理由があります。
日本小児科学会の全国調査(Tetsuhara 2025)で、転帰不良になった誤診のトップに脳炎・脳症が入りました [1]。最初に胃腸炎や上気道炎と診断され、後から脳症と判明した事例が多数含まれていました。
レアだからこそ、見逃しが起きやすい。そして見逃しが転帰を分ける。そういう病気です。
「これかもしれない」と気づけるサインを、今号でお伝えします。
Q1: 急性脳症って何ですか?インフルエンザの後になるって聞いたんですが
外来でよく聞かれます。まず概要から整理しますね。
急性脳症は、ウイルス感染(インフルエンザ、HHV-6、ロタウイルスなど)の後に、脳全体の機能が急に低下する病気です。ウイルスが直接脳に入るというより、感染をきっかけに脳が強い炎症反応を起こす、というイメージが近いです [2]。
東アジアに多く、日本は特に発症率が高い地域として世界的に知られています。原因として最も多いのはインフルエンザで、次いでHHV-6(突発性発疹の原因ウイルス)、ロタウイルスと続きます [3]。
全国調査では2007〜2010年の3年間で983例、2014年4月〜2017年6月の約3年間で1115例と報告されています [3][4]。1年あたり330〜350例というのが現時点での実数です。決して多くはない数字ですが、重症化した場合に後遺症が残ることがある病気です。
病型はいくつかに分かれています。最も多いのがAESD(急性脳症・二相性発作)という型で、初発の長いけいれんから4〜6日後に第2波のけいれんが起こる経過をたどります [5]。最重症型はANE(急性壊死性脳症)といって、意識障害が急速に深まり両側の視床に病変が出ます [6]。軽症型のMERS(可逆性脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎・脳症)は多くが1か月以内に完全回復します [7]。
ポイント
- 急性脳症はウイルス感染後に脳機能が急低下する病気。東アジアに多い [2]
- 国内では年間330〜350例ほど。インフルエンザが最頻原因 [3][4]
- 病型によって重症度と経過が大きく異なる
Q2: ただの発熱や熱性けいれんと、脳症はどう見分けたらいいですか?
これが今号で最も伝えたい部分です。
普通の熱性けいれんは、ほとんどが5分以内に自然に止まります。けいれん後は眠くなりますが、30分もすれば呼びかけに反応するようになります。脳にダメージは残りません(詳しくはVol.14 熱性けいれんを参照してください)。
脳症が疑われる状況は、この「回復」が起きないときです。
次の症状が出たら、迷わず119番に電話してください。
けいれんが5分以上続く場合。短時間に2回以上起きる場合。けいれんが止まった後、30分経っても意識が戻らない場合。
これだけは頭に入れておいてください。
それ以外にも、こういったサインが続くときは要注意です。
熱があるのに、呼びかけへの反応がおかしい。ぼーっとしていて、いつもと明らかに違う眠さがある。うわごとや意味不明な発語が止まらない。幻覚を見ているような言動がある(熱せん妄との区別は難しいですが、持続・進行するようなら危険です。詳しくはVol.xxx 熱せん妄を参照)。嘔吐が何度も繰り返される。
難しいのは、こうした症状が最初に胃腸炎や上気道炎と判断されやすいことです。全国調査(Tetsuhara 2025)では、転帰不良になった事例の中に、初診で胃腸炎・上気道炎と診断され後から脳症と判明したケースが複数含まれていました [1]。レアな病気ほど、最初の段階では見抜けないことがある。それが現実です。
だからこそ、受診後も「なんか変だ」と感じたら、もう一度声をかけてください。
ポイント
- けいれんが5分以上、または2回以上、または止まっても意識が戻らないなら119番
- 意味不明な発語・異常な眠気・嘔吐反復が続く場合も要注意
- 初期に胃腸炎・上気道炎と診断されて後から脳症と判明した事例がある [1]
- 「なんか変」という直感は、もう一度受診するサイン
けいれんが5分以上続く。けいれんが止まっても30分以上意識が戻らない。短時間に2回以上けいれんが起きる。この3つのどれかに当てはまれば、迷わず119番です。
Q3: 解熱剤の選び方と、けいれんした時の家庭での対処を教えてください
まず解熱剤の話から。
インフルエンザが疑われる場合の発熱には、アセトアミノフェン(カロナール、アンヒバ坐剤)を使ってください。
ジクロフェナク(ボルタレン)とメフェナム酸(ポンタール)は使わないでください。
これは好みの問題ではなく、エビデンスに基づいた推奨です。インフルエンザ脳症442例を対象にした多変量解析で、ジクロフェナクの使用が死亡の独立した予測因子であることが確認されています [8]。日本小児科学会も公式に「ジクロフェナクは致命率を有意に上昇させる」と明記し、インフルエンザの発熱時はアセトアミノフェンを推奨しています。
イブプロフェン(ブルフェン)については現時点で明確な有害との証拠はありませんが、インフルエンザ時には慎重な使用が推奨されています。
次に、けいれんした時の対処です。
横向きに寝かせます。嘔吐しても窒息しないように、顔を横に向けた姿勢で。時間を測ります。スマホの時計でいいので、始まった時刻を記録してください。5分以上続いたら、または2回目が起きたら119番です。嘔吐したらすぐ横向きに戻します。口の中に指やタオルを入れるのは絶対にしないでください。昔からの習慣のように言われますが、窒息リスクを上げるだけです。
早期治療が転帰を分けることも、データが示しています。AESDでは発症から24時間以内にミトコンドリアカクテル(ビタミンB1・B2・C、カルニチン、コエンザイムQ10の組み合わせ)を投与することで予後が改善するという報告があります [9]。「何か変だ」と思ったら早めに受診することが、治療の選択肢を広げます。
ポイント
- インフルエンザの発熱にはアセトアミノフェンのみ。ジクロフェナクは使わない [8]
- けいれん時は横向き→時間計測→5分超か2回以上で119番
- 口に何も入れない(窒息リスク)
- 疑いがあれば早期受診。24時間以内の治療開始が転帰に影響する [9]
今号のまとめ
急性脳症は年に数百例のレアな病気ですが、初期症状が他の感染症と紛らわしいために、見逃しが起きやすい疾患です。
「けいれんが5分以上」「止まっても意識が戻らない」「異常な眠気・意味不明な言動が続く」、このサインが出たら迷わず119番に電話してください。
インフルエンザの熱には、アセトアミノフェンだけを使ってください。ジクロフェナクは使わないでください。
そして「なんか変だ」という直感を大切にしてください。最初の診断が胃腸炎であっても、症状が変わったり悪化したりしたら、もう一度受診していいんです。