愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.504
これから親になるあなたへ。産前に読んでほしい手紙
今号のポイント
- 2産前に準備すべきは物よりも心構え。「完璧な親にならなくていい」という許可を自分に出すこと
- 4生後1か月は「生存モード」。家事の水準を下げて、親子ともに生き延びることが最優先
- 6困ったときに頼れる先を、生まれる前に3つ見つけておく。それが最大の「準備」
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
今号は、もうすぐお子さんが生まれるあなたに向けて書きます。育児書でもガイドラインでもなく、小児科の外来で何千組もの親子を診てきた僕からの、個人的な手紙です。
完璧な親はいません。いたとしても、それは子どもにとって良くない
出産が近づくと、不安になりますよね。ちゃんと育てられるだろうか。泣いている理由がわからなかったらどうしよう。何か大事なことを見落としたらどうしよう。
先に答えを言います。泣いている理由がわからないことは、日常的に起きます。何か見落とすことも、たぶんあります。でもそれで大丈夫です。
小児科医のウィニコットが言った「good enough mother(十分に良い母親)」という言葉があります [1]。完璧な親ではなく、「だいたい良い」親であること。それが子どもの健全な発達に最も適しているという考え方です。
完璧に応えてくれる親のもとでは、子どもは「自分で何とかする力」を育てる機会を失います。少し待たされること、思い通りにいかないこと。その小さなフラストレーションが、子どもの心を育てます。
だから、「完璧な親にならなくていい」という許可を、今のうちに自分に出してください。
生後1か月は「生存モード」で構いません
赤ちゃんが生まれてからの1か月間を、僕は「生存モード」と呼んでいます。
3時間ごとの授乳、昼夜の区別がない生活、慢性的な睡眠不足。これが数週間続きます。この期間に、家事を完璧にこなそうとしないでください [2]。
掃除は最低限でいい。食事は出来合いのもので構わない。洗濯物が山になっていても、子どもの健康には影響しません。この時期の最優先事項は、赤ちゃんが生きていること、あなたが生きていること。この二つだけです。
パートナーがいる方へ。産後のお母さんの体は、交通事故の後と同じくらいのダメージを受けています。「手伝う」ではなく「自分の仕事として」家事と育児を引き受けてください。夜中の授乳のあとのおむつ替え、ゴミ出し、買い物。具体的なタスクを自分から拾ってください [3]。
ベビー用品は最低限で大丈夫です。本当に必要なのは、肌着、おむつ、ガーゼ、チャイルドシート。それ以外は、生まれてから「必要だ」と感じたものをネットで注文すれば翌日届きます。使わなかったベビー用品が山積みになっている家を、たくさん見てきました。
困ったときの頼り先を、3つ見つけておく
産前に僕がひとつだけお願いするとしたら、これです。困ったときに頼れる先を、3つ見つけておいてください。
1つ目は、医療の頼り先。かかりつけの小児科を決めておいてください。愛育病院で生まれる方は、退院前に小児科医が新生児の診察をします。その後の1か月健診で、かかりつけ医への引き継ぎが行われます。地域の小児科を事前にリサーチしておくと安心です。夜間の不安には、小児救急電話相談#8000を覚えておいてください。
2つ目は、生活の頼り先。産後ケアや家事代行サービスなど、生活を支えてくれる仕組みです。港区には産後ケア事業があり、ショートステイやデイケアが利用できます [4]。「自分ひとりでやらなきゃ」と思い込まないでください。
3つ目は、気持ちの頼り先。「今日つらかった」と言える相手です。パートナー、親、友人、地域の子育てひろば。誰でもいいのですが、「つらい」と言える場所を確保しておくことが、産後うつの予防になります。
赤ちゃんはあなたを選んで生まれてくるわけではない。でも、あなたで大丈夫
「生まれてくる子どもに申し訳ない」と感じる瞬間が来るかもしれません。自分なんかに育てられるのかと。
その不安を感じること自体が、あなたが真剣に親になろうとしている証拠です。無責任な人はそんな不安を感じません。
小児科の外来で、何千組もの親子を見てきました。「完璧な親」は一組もいませんでした。でも、「子どもを大切に思っている親」は全組でした。迷いながら、悩みながら、失敗しながら、それでも前を向いている。そういう親のもとで、子どもたちは育っています。
あなたも、きっと大丈夫です。

おかもん先生より
愛育病院で生まれたばかりの赤ちゃんを診察するとき、僕はいつも保護者の方にこう伝えます。「何か心配なことがあったら、いつでも聞いてください。くだらない質問なんてありません」。これは社交辞令ではなく、本心です。初めての育児で「わからない」のは当然です。わからないことを聞けること、助けを求められること。それが、良い親の条件です。
今号のまとめ
- 完璧な親を目指さない。「だいたい良い親」が最適解
- 生後1か月は生存モード。家事の水準を下げて、生き延びることが最優先
- 産前に頼り先を3つ見つけておく。医療、生活、気持ちの3軸
- ベビー用品は最低限。必要なものは生まれてから買えばいい
- 「わからない」を聞けることが、良い親の条件
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- Vol.360「十分に良い母親のすすめ」
- Vol.348「マタニティーブルーと産後うつの話」
- Vol.503「外来で忘れられない話」
ご質問・ご感想
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愛育病院 小児科 おかもん先生
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