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外来で忘れられない話
Vol.503生活・育児

外来で忘れられない話

小児科医として何千人もの子どもを診てきたなかで、忘れられない出来事がある。外来の日常のなかにある小さな物語

生活・育児全年齢6
おかもん先生小児科専門医愛育病院 小児科

参考文献 3·Q&A 問収録

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この記事のポイント

  • 小児科の外来には、数字や検査結果では測れない瞬間がある
  • 子どもの病気を通じて、保護者の強さを目の当たりにすることがある
  • 医師として診ているつもりが、子どもや保護者から学んでいることのほうが多い

愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.503

外来で忘れられない話

今号のポイント

  1. 2
    小児科の外来には、数字や検査結果では測れない瞬間がある
  2. 4
    子どもの病気を通じて、保護者の強さを目の当たりにすることがある
  3. 6
    医師として診ているつもりが、子どもや保護者から学んでいることのほうが多い

こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。

今号は、これまでの外来で忘れられないいくつかの場面について書きます。個人が特定されないよう、細部は変えています。でも感じたことは、そのままです。

泣かなかった子

3歳の男の子が、採血のために処置室に入ってきました。お母さんに手を引かれて、明らかに怖がっていました。唇をぎゅっと結んで、目に涙をためて。でも泣きませんでした。

看護師が腕を消毒している間、その子はずっと僕の顔を見ていました。僕が「ちょっとチクッとするよ」と言うと、小さくうなずきました。針が入った瞬間、体がびくっと震えました。でも声は出しませんでした。

採血が終わって、「すごいね、頑張ったね」と言ったとき、その子は初めて泣きました。我慢していたものが全部出てきたように、わあっと声を上げて泣きました。

お母さんが抱き上げて、「よく頑張ったね」と背中をさすっていました。その子はお母さんの肩に顔を埋めて、しばらく泣いていました。

3歳の子どもが「怖くても頑張ろう」と思えること。それ自体がすごいことです。子どもの勇気は、大人が思っているよりずっと大きい。

「先生、大丈夫だよ」

5歳の女の子が、喘息の発作で救急に来ました。呼吸が苦しくて、肩で息をしていて、吸入をしながらベッドに横になっていました。

お母さんはかなり動揺していて、「大丈夫ですか、大丈夫ですか」と何度も聞いていました。僕は「大丈夫ですよ、吸入が効いてきますから」と答えながら、酸素飽和度のモニターを確認していました。

すると、ベッドの上から小さな声が聞こえました。「ママ、大丈夫だよ」。

吸入のマスクをつけたまま、その子はお母さんの手を握っていました。自分が一番苦しいはずなのに、お母さんを心配している。子どもは親が思っている以上に、親のことを見ています。

その後、吸入が効いて呼吸は落ち着きました。翌日の外来でその子に会ったとき、走り回っていて、昨夜の発作が嘘のようでした。子どもの回復力には、何年経っても驚かされます [1]。

💡子どもの前での態度

親が落ち着いていると、子どもも落ち着きます。完璧にふるまう必要はありませんが、「大丈夫」と思おうとする姿勢は子どもに伝わります。深呼吸をひとつ、それだけでも違います。

手紙

ある日、外来の受付に封筒が届いていました。宛名は「おかもん先生」。

中には、便箋一枚の手紙が入っていました。

お子さんが長く通院していたご家庭からでした。何度も入退院を繰り返して、外来にも定期的に通っていて。その子が元気になって、通院を卒業することになったとき、お母さんが手紙を書いてくれたのです。

細かい内容は書けませんが、最後の一行が忘れられません。「先生がいてくれて、安心でした」。

医師として、これ以上の言葉はありません。

僕たちは検査をして、薬を出して、説明をする。それが仕事です。でもその裏にある「この人がいてくれるから安心できる」という信頼は、手技や知識とは別の次元にあるものです [2]。

診ているつもりが、教わっている

小児科医として何千人もの子どもと保護者に接してきて、確信していることがあります。僕が教えていることより、教わっていることのほうが多い。

子どもから学んだこと。恐怖に向き合う勇気。苦しいときでも誰かを思いやる心。昨日の痛みを引きずらない回復力。

保護者から学んだこと。寝不足でも笑顔で外来に来る強さ。自分のことは後回しにする覚悟。「この子のために」という一点に集約されるエネルギー [3]。

医学の教科書には書かれていない、でも確実に僕を小児科医として成長させてくれた学びが、外来の日常のなかにあります。

コンコン先生
🏥

おかもん先生より

外来が終わって、カルテの整理をしながら一日を振り返ることがあります。今日、あのお母さんに十分な説明ができただろうか。あの子の不安を、ちゃんと和らげられただろうか。満点の日はありません。でも、子どもたちと保護者の皆さんが見せてくれる強さや優しさに、僕自身が支えられています。明日もまた、外来で待っています。

今号のまとめ

  • 小児科の外来には、数字では測れない瞬間がある
  • 子どもの勇気と回復力は、大人の想像を超えている
  • 保護者の強さと愛情は、医師にとっても学びの源泉
  • 「先生がいてくれて安心でした」。この言葉が医師を医師にする
  • 診ているつもりが、教わっている。それが小児科の日常

あわせて読みたい

  • Vol.501「なぜ僕は医者になったのか」
  • Vol.504「これから親になるあなたへ」
  • Vol.360「十分に良い母親のすすめ」

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「うちの子の通院エピソードです」「先生にこんなことを伝えたかったんです」など、お便りがございましたら、お気軽にお寄せください。

愛育病院 小児科 おかもん先生

本メルマガの内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さまの症状についてはかかりつけの小児科医にご相談ください。

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