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2週間も咳が続く……、マイコプラズマ肺炎を知っておく
Vol.468感染症

2週間も咳が続く……、マイコプラズマ肺炎を知っておく

マイコプラズマ肺炎の特徴・診断・治療・登校基準

感染症3〜6歳・6〜12歳14
おかもん先生小児科専門医愛育病院 小児科

参考文献 10·Q&A 5問収録

プロフィール →

この記事のポイント

  • マイコプラズマ肺炎は乾いた咳が2〜3週間続くのが特徴的
  • 細胞壁を持たない特殊な微生物のためペニシリン系抗生物質は効かない
  • 日本ではマクロライド系耐性菌が問題化。重症例にはテトラサイクリン系を使用

愛育病院 小児科おかもん だより Vol.062

「しつこい咳の正体」、マイコプラズマ肺炎を知ろう

今号のポイント

  1. 2
    マイコプラズマ肺炎は学童期(5〜15歳)に多い「歩く肺炎」、元気そうでも肺炎のことがある
  2. 4
    乾いた咳が2〜3週間続く場合はマイコプラズマを疑い、早めに受診を
  3. 6
    治療の第一選択はマクロライド系抗菌薬だが、近年は耐性菌も増加中

こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。

「風邪かなと思っていたのに、咳だけがいつまでも止まらない……」「熱は下がったのに、夜中に咳き込んで眠れない」、そんな経験はありませんか?

お子さんの「しつこい咳」の原因として、最近特に注目されているのがマイコプラズマ肺炎です。2023〜2024年にかけて、日本を含む世界各地で大流行が報告されました [1][2]。マイコプラズマ肺炎は、見た目が比較的元気なのに実は肺炎だった、いわゆる「歩く肺炎(walking pneumonia)」と呼ばれることもあり、見逃されやすい感染症のひとつです。

今回は、保護者の方からよくいただく質問にお答えしながら、マイコプラズマ肺炎について詳しく解説します。

Q1.「マイコプラズマって何ですか?ウイルスですか?細菌ですか?」

——保育園でマイコプラズマが流行っていると聞きました。名前は聞いたことがあるのですが、そもそもどんな病気なのでしょう?ウイルスなのか細菌なのかも分かりません。

いい質問ですね。マイコプラズマは、じつはウイルスでも一般的な細菌でもない、少し特殊な微生物です。

肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は、最小の自己増殖可能な微生物のひとつで、一般の細菌とは異なり細胞壁を持たないという大きな特徴があります [3]。

特徴一般的な細菌マイコプラズマウイルス
細胞壁ありなしなし
自己増殖できるできるできない(宿主が必要)
大きさ1〜10 μm0.2〜0.3 μm0.02〜0.3 μm
抗菌薬の効果あり一部のみ有効無効
ペニシリン系の効果多くに有効無効(細胞壁がないため)無効

細胞壁がないため、風邪で処方されることのあるペニシリン系やセフェム系の抗菌薬(いわゆる「ふつうの抗生物質」)はまったく効きません [3][4]。これが、マイコプラズマ肺炎の治療で特別な抗菌薬が必要になる理由です。

ポイント

  • マイコプラズマは「細胞壁を持たない特殊な微生物」で、ウイルスとも一般的な細菌とも異なります [3]
  • ペニシリン系・セフェム系の抗菌薬は効かないため、正しい診断が重要です [4]
  • 主に飛沫感染と接触感染で広がり、潜伏期間は1〜3週間と比較的長いのが特徴です [5]

Q2.「どんな症状が出ますか?ふつうの風邪との違いは?」

——最初は風邪だと思っていたのですが、もう2週間も咳が続いています。熱は最初の数日だけでした。これはマイコプラズマの可能性がありますか?

2週間以上続く咳は、マイコプラズマを疑うひとつのサインです。ふつうの風邪との違いを見てみましょう。

マイコプラズマ肺炎の典型的な経過は、以下のとおりです。

症状

第1週
発熱(38〜39℃)、倦怠感、頭痛、咽頭痛
第2週
乾いた咳が目立つ、発熱は落ち着くことが多い
第3〜4週
咳が続く(特に夜間・早朝)、痰がからみ始める

ふつうの風邪との違い

第1週
この段階では風邪と見分けがつきにくい
第2週
風邪なら咳は1週間程度で軽快するが、マイコプラズマでは悪化
第3〜4週
咳が3〜4週間以上続くのが最大の特徴 [5][6]

マイコプラズマ肺炎の臨床的な特徴をまとめると:

  1. 2
    「しつこい乾いた咳」が最大の特徴(全体の95%以上で認められます)[5]
  2. 4
    見た目が比較的元気、高熱が続く割に、ぐったりしていないことが多い [6]
  3. 6
    聴診では異常が見つかりにくいことがある(胸部X線で初めて肺炎と分かることも)[4]
  4. 8
    鼻水や鼻づまりは目立たない、ふつうの風邪と異なるポイント
  5. 10
    家族内や学校内で集団発生しやすい [1]

ポイント

  • 「熱は下がったのに咳だけ続く」はマイコプラズマの典型パターンです [5][6]
  • 特に学童期のお子さんで2週間以上咳が続く場合は受診をお勧めします
  • 見た目が元気でも肺炎になっていることがある(「歩く肺炎」)ため、油断は禁物です [6]

Q3.「どうやって診断するのですか?」

——小児科を受診したら、いろいろな検査をするのでしょうか?すぐに分かるものですか?

マイコプラズマの診断にはいくつかの方法があります。最近は迅速検査の精度も向上してきました。

マイコプラズマ肺炎の診断で用いられる検査法を整理します。

検査法方法所要時間感度特徴
迅速抗原検査咽頭ぬぐい液15〜20分60〜80%外来でその場で結果が分かる [7]
LAMP法咽頭ぬぐい液約1時間90%以上感度が高く、保険適用あり [7]
PCR法咽頭ぬぐい液数時間〜1日95%以上最も感度が高い(ゴールドスタンダード)[7]
血清抗体検査(PA法)採血数日高いペア血清(急性期と回復期)で確定診断 [4]
胸部X線レントゲン即日肺炎の有無と広がりを確認 [4]

実際の外来診療では、まず迅速抗原検査やLAMP法を行い、臨床症状と合わせて総合的に判断します。ただし、発症初期(2〜3日以内)は菌量が少ないため、迅速検査が偽陰性になることもあります [7]。

「検査が陰性だったけど症状が典型的」という場合には、臨床的にマイコプラズマ肺炎と判断して治療を開始することも少なくありません。

ポイント

  • 迅速抗原検査は15〜20分で結果が出ますが、発症早期は偽陰性のことがあります [7]
  • LAMP法やPCR法はより精度が高く、確実な診断に役立ちます [7]
  • 咳が2週間以上続く場合は、胸部X線検査で肺炎の有無を確認することが重要です [4]

Q4.「治療はどうするのですか?ふつうの抗生物質で効きますか?」

——以前、別の風邪のときにもらった抗生物質(セフェム系)が残っているのですが、飲ませても大丈夫ですか?

いいえ、残っている抗生物質を飲ませるのは絶対にやめてください。マイコプラズマにはセフェム系は効きませんし、そもそも処方された抗菌薬の自己判断での使用は耐性菌を生む原因にもなります。

マイコプラズマ肺炎の治療で使われる抗菌薬は以下のとおりです。

薬剤分類用法備考
クラリスロマイシンマクロライド系1日2回、10日間第一選択。小児用ドライシロップあり [4][8]
アジスロマイシンマクロライド系1日1回、3日間服用期間が短く飲みやすい [4][8]
エリスロマイシンマクロライド系1日3〜4回、10〜14日間古典的な薬剤。胃腸障害が多い [4]
トスフロキサシンニューキノロン系1日2回、7日間マクロライド耐性の場合に検討 [8][9]
ミノサイクリンテトラサイクリン系1日2回、7〜14日間8歳以上で使用。歯の着色に注意 [8][9]

治療のポイントを整理します:

  1. 2
    第一選択はマクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)[4][8]
  2. 4
    マクロライド系を48〜72時間使用しても改善しない場合は耐性菌を考慮 [8][9]
  3. 6
    日本ではマクロライド耐性マイコプラズマの割合が約50〜90%と報告されており、世界的にも高い水準です [9][10]
  4. 8
    耐性の場合、8歳以上ではミノサイクリン、8歳未満ではトスフロキサシンなどが選択肢になります [8][9]
  5. 10
    軽症例は自然治癒することもあり、必ずしも抗菌薬が必要ではありません [6]

大切なこと: マイコプラズマ肺炎の咳は、適切な治療を行っても2〜4週間かけてゆっくり改善することが多いです。「薬を飲んでいるのに咳が止まらない」と焦る必要はありません。ただし、呼吸が苦しそう、水分が摂れない、ぐったりしているなどの症状があれば、すぐに再受診してください。

ポイント

  • マクロライド系抗菌薬が第一選択ですが、日本では耐性菌が多いことを知っておきましょう [8][9]
  • 48〜72時間で改善しない場合は耐性菌の可能性があり、薬の変更が必要かもしれません [8]
  • 前にもらった抗菌薬の使い回しは絶対にNG。適切な薬を適切な量・期間で使うことが大切です(参考: vol012_風邪に抗生物質の誤解

Q5.「学校や保育園はいつから行けますか?家族にうつらないようにするには?」

——兄(8歳)がマイコプラズマと診断されました。下に2歳の妹がいるのですが、うつりますか?学校はどのくらい休めばいいですか?

ご兄弟がいると心配ですよね。感染予防と登校基準についてお話しします。

出席停止・登園基準

マイコプラズマ肺炎は、学校保健安全法では「その他の感染症(第三種)」に分類されています [11]。

区分基準
学校(小・中・高)「急性期が過ぎ、全身状態が良好」になれば登校可能。明確な日数規定はなく、医師の判断による [11]
保育園・幼稚園厚生労働省ガイドラインに基づき、「発熱や激しい咳が治まり、全身状態がよいこと」が目安 [12]

具体的な目安としては:

  • 解熱後、全身状態が安定している
  • 激しい咳が治まっている(多少の咳は残っていてもOK)
  • 食事・水分が普通に摂れる
  • 医師が「登校(登園)可能」と判断している

家庭内感染予防

マイコプラズマは飛沫感染と接触感染で広がります。家庭内で気をつけたいポイントを表にまとめます [5][12]。

対策具体的な方法
手洗い石鹸と流水で20秒以上。食事前、トイレ後、咳をした後は必ず
咳エチケット咳やくしゃみはティッシュや肘の内側で受ける
タオル・食器の共有を避ける特に急性期は専用のものを使用
換気こまめに部屋の換気を行う(1時間に1〜2回、5〜10分程度)
マスク咳のある本人ができればマスクを着用(小さいお子さんは無理のない範囲で)
寝室の分離可能であれば、急性期は寝室を分ける

ご兄弟への感染リスクについて: マイコプラズマの潜伏期間は1〜3週間と長いため、ご兄弟がすでに感染している可能性もあります。発熱や咳が出始めたら、早めに受診してください [5]。

なお、2歳のお子さんの場合、マイコプラズマに感染しても肺炎にまで進展しにくい傾向があります。乳幼児では上気道炎(いわゆる風邪)で終わることが多いとされています [6]。ただし、ゼロリスクではありませんので、症状が出たら受診をお勧めします。

ポイント

  • 明確な出席停止日数はなく、「全身状態が良好」かどうかが基準です [11]
  • 家庭内では手洗い・咳エチケット・タオル等の共有回避が基本 [5][12]
  • 潜伏期間が1〜3週間と長いため、兄弟間の感染に注意が必要です [5]
  • 乳幼児は肺炎になりにくい傾向がありますが、油断せず症状があれば受診を [6]
  • 保育園入園後のお子さんの感染症対策については vol031_保育園入園後の風邪ラッシュ もご覧ください

まとめ

マイコプラズマ肺炎のポイントを最後に整理します。

項目内容
原因肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、細胞壁を持たない特殊な微生物
好発年齢5〜15歳(学童期)に多い。乳幼児は軽症で済むことが多い
特徴的な症状2週間以上続く乾いた咳、発熱後に咳だけが残る
診断迅速抗原検査、LAMP法、PCR法、胸部X線
治療マクロライド系抗菌薬が第一選択。耐性菌にはミノサイクリンやトスフロキサシン
出席基準急性期を過ぎ全身状態良好なら登校・登園可。日数規定なし
予防手洗い、咳エチケット、換気。ワクチンは現時点ではなし
注意すべき合併症胸水貯留、無気肺、脳炎・脳症(まれ)、皮疹(多形紅斑)[6][13]

「たかが咳」と思わず、2週間以上続く場合は一度受診してみてください。早めの診断と適切な治療で、お子さんの「しつこい咳」を楽にしてあげましょう。

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