愛育病院 小児科おかもん だより Vol.9
「プロペトとヒルドイド、何が違うの?」、保湿剤の「ラップ」と「化粧水」を使い分ける
今号のポイント
- 2プロペトは「ラップ」(水分蒸発を防ぐ)、ヒルドイドは「化粧水」(水分を保持する)、役割が違うので使い分けが大切
- 4口まわり・おむつまわりはプロペト、全身の乾燥にはヒルドイド。塗る量は「テカテカ光るくらい」が適量
- 6お風呂上がり3分以内の保湿が最も効果的。毎日の保湿ケアはお子さんの肌を守る基本です
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
今回のテーマは、外来で保護者のみなさまから毎日のようにいただく質問、保湿剤の使い方です。
「プロペトとヒルドイド、どっちを塗ればいいんですか?」 「ヒルドイドのクリームとローション、何が違うんですか?」 「そもそも保湿って本当に必要なんですか?」
処方された塗り薬が2種類以上あると、混乱してしまいますよね。でも大丈夫です。正しい知識があれば心配いりません。役割の違いさえわかれば、使い分けはとてもシンプルです。
Q1.「プロペトとヒルドイド、何が違うんですか?」
——小児科で『プロペト』(ワセリンの一種で、不純物を取り除いた保湿剤)と『ヒルドイド』(ヘパリン類似物質を含む保湿剤)の2つを処方されたんですが、正直どう使い分ければいいかわからなくて……。どっちも保湿剤ですよね?
とても良い質問です。結論から言うと、プロペトとヒルドイドは役割がまったく違います。わかりやすく言うと、プロペトは「ラップ」、ヒルドイドは「化粧水」のような存在なんです
——ラップと化粧水……?
はい。もう少し詳しく説明しますね。赤ちゃんのお肌から水分が逃げていく仕組みを想像してください。お肌の表面からは常に水分が蒸発しています。これを経皮水分蒸散(TEWL)と呼びます。プロペト(白色ワセリン)は、お肌の表面に油の膜を張ることで、この水分の蒸発を物理的にブロックします [1]。まさに食品にラップをかけて乾燥を防ぐイメージです。一方、ヒルドイド(ヘパリン類似物質)は、お肌の角質層(一番外側の層)に働きかけて、水分を吸着して保持する力を高めます [2]。化粧水がお肌に水分を与えて潤わせるのと同じ原理ですね
——なるほど!プロペトは水分が逃げないようにフタをして、ヒルドイドは水分をお肌の中にとどめるんですね
その通りです。医学的には、プロペトのような油膜で蒸発を防ぐタイプをエモリエント(皮膚軟化剤)、ヒルドイドのように水分保持力を高めるタイプをモイスチャライザー(保湿剤)と呼びます [1][2]。どちらが優れているという話ではなく、それぞれ得意分野が違うんです
ポイント
- プロペト(白色ワセリン)=「ラップ」。お肌の表面に油膜を張り、水分の蒸発をブロック [1]
- ヒルドイド(ヘパリン類似物質)=「化粧水」。角質層の水分保持力を高める [2]
- 役割が違うので、どちらが上ということではなく「使い分け」が大切
Q2.「部位によって塗り分けたほうがいいんですか?」
——2種類あるのはわかったんですが、具体的にどこにどっちを塗ればいいですか? 全身に両方塗るのは大変で……
お気持ちわかります。基本的な考え方はとてもシンプルです。刺激が多い部位にはプロペト、乾燥が気になる全身にはヒルドイドと覚えてください
——刺激が多い部位って、具体的には?
代表的なのは口まわりとおむつまわりです。口まわりは、よだれや食べ物が何度もつくことで皮膚が荒れやすい場所です。プロペトを塗っておくと、よだれや食べ物の刺激から肌を守るバリアになります [3]。おむつまわりも同じで、おしっこやうんちの刺激をプロペトの油膜がブロックしてくれます [4]。プロペトは添加物がほとんどないので、荒れた肌に塗ってもしみにくいという利点もあります
——よだれかぶれがひどくて困っていたので、プロペトを食事の前に塗っておけばいいんですね!
その通りです。授乳や食事の前に口まわりにプロペトを塗っておくのは、とても効果的な予防法です。一方、お腹や背中、腕や脚といった広い範囲の日常的な保湿にはヒルドイドがおすすめです。プロペトはべたつきが強いので、全身に塗ると服にくっついたり、お子さんが嫌がったりすることがありますからね
——たしかに、プロペトはベタベタしますよね……
そうなんです。ヒルドイドはべたつきが少なく伸びも良いので、広い範囲に塗りやすいんです。日本のアトピー性皮膚炎の患者さんを対象とした調査では、95.1%の方がヒルドイドの保湿剤を使用しており、1ヶ月の継続で肌の乾燥やかゆみが有意に改善したと報告されています [5]
ポイント
- 口まわり・おむつまわり(刺激が多い)→ プロペトでバリアを張る [3][4]
- 全身の乾燥(お腹、背中、腕、脚)→ ヒルドイドで保湿する [5]
- 食事や授乳の前に口まわりにプロペトを塗ると、よだれかぶれの予防に効果的
Q3.「ヒルドイドにいろんな種類があって迷います」
——ヒルドイドって、ローションとかクリームとか泡のタイプとか色々ありますよね。どれを使えばいいか教えてください
ヒルドイドには4つの形(剤形)があります。すべて有効成分のヘパリン類似物質の濃度は同じ0.3%ですが、使い心地と適した部位・季節が違います [6]
特徴
- フォーム(泡)
- ワンプッシュで泡が出る。広い範囲にさっと塗れる
- ローション
- さらっとした液体。べたつきが少ない
- クリーム
- しっとりした感触。バランス型
- ソフト軟膏
- しっかりした保湿力。油分が多い
おすすめの場面
- フォーム(泡)
- 全身に手早く塗りたい時。じっとしていない赤ちゃんに
- ローション
- 夏場の全身保湿。頭皮(髪の間にも浸透しやすい)
- クリーム
- オールシーズン使える万能タイプ
- ソフト軟膏
- 冬場の乾燥がひどい時。特に乾燥の強い部位に
——季節で使い分けるんですね。夏はローション、冬はソフト軟膏……
そうです。ざっくり言えば、暑い時期はさらっとしたもの(ローション・フォーム)、寒い時期はしっかり保湿できるもの(クリーム・ソフト軟膏)が使いやすいです。ただ、お子さんが嫌がらずに塗らせてくれることが一番大切です。毎日続けられる剤形を選ぶのがベストですよ
——うちの子、塗るのを嫌がるので泡タイプだと助かりそうです
フォームタイプは2018年に発売された比較的新しい剤形で、まさにそういったお子さん向けに開発されました [6]。手のひらに泡を出して、さっと塗り広げるだけなので、忙しいお風呂上がりにも重宝しますよ
ポイント
- ヒルドイドは4つの剤形、すべて有効成分の濃度は同じ(0.3%)[6]
- 夏 → ローション・フォーム、冬 → クリーム・ソフト軟膏が目安
- 一番大切なのは「毎日続けられる」こと。お子さんが嫌がらない剤形を選ぶ
Q4.「保湿剤はどのくらいの量を、いつ塗ればいいですか?」
——いつもなんとなく塗っているんですが、適切な量ってあるんですか?
はい、実は『塗る量が足りない』というのが、外来で最もよくお見かけするパターンです。目安になるのがFTU(フィンガーチップユニット=指先の量で測る塗り薬の単位)です [7]。チューブの口径5mmのチューブから、大人の人差し指の先から第一関節まで絞り出した量が1FTUで、約0.5gにあたります。これが大人の手のひら2枚分の面積に塗る量です
——思ったより多いですね!
そうなんです。塗った後にお肌がテカテカ光るくらいが適量の目安です。ティッシュを貼り付けて落ちないくらい、と説明することもあります。塗りすぎかな?と思うくらいでちょうど良いことが多いですよ。赤ちゃんの場合は体が小さいので、1FTUの3分の1〜4分の1程度で手のひら2枚分の面積に対応できます [7]
——タイミングはお風呂上がりがいいですか?
はい。お風呂上がりが最も効果的です。入浴後、お肌がまだしっとりしているうちに、できれば3分以内に塗るのが理想的です [8]。お風呂で角質層に水分が吸収された状態で保湿剤を塗ると、その水分を閉じ込める効果が高まります。3分を過ぎると蒸発が進んで、入浴前よりお肌が乾燥してしまうこともあるんです
——3分以内!けっこう急がないとですね
バスタオルでサッと拭いたら、すぐに保湿、というルーティンを作ると楽ですよ。乾燥がひどい時期は、お風呂上がりだけでなく朝の着替え時にもう1回塗ると効果的です
ポイント
- 1FTU(指の先〜第一関節の量)で大人の手のひら2枚分。テカテカ光るくらいが適量 [7]
- お風呂上がり3分以内に塗るのが最も効果的 [8]
- 乾燥がひどい時期は朝晩2回の保湿を
Q5.「新生児から保湿すればアトピーを予防できるって本当ですか?」
——ネットで『生まれた日から保湿すればアトピーを防げる』と読んだんですが、本当ですか? それなら頑張って塗りたいんですが……
これは非常に重要なテーマで、実は専門家の間でも議論が続いているところです。まず安心していただきたいのは、毎日の保湿ケア自体はお子さんのお肌にとって良いことだと確立されている点です。そのうえで、正直にお伝えしますね
——議論が続いている……ということは、まだはっきりわかっていない?
はい。まず希望の持てる結果からお話しすると、2014年に日本で行われた研究(堀向ら)では、アトピーのリスクが高い新生児118人を対象に、生後すぐから毎日保湿を続けたグループは、しなかったグループに比べてアトピー発症が約32%少なかったと報告されました [9]。同時期に米国・英国で行われた研究(Simpsonら)でも、同様に早期保湿がアトピーの発症を遅らせる可能性が示されました [10]
——32%減!それはかなりの効果ですよね
ところが、2020年にイギリスで行われた大規模な試験(BEEP試験、1,394人の新生児が参加)では、毎日保湿したグループとしなかったグループで、2歳時点でのアトピー発症率に差がなかった(保湿群23% vs 対照群25%)という結果が出ました [11]。さらに5年後の追跡でも差は認められませんでした [12]。一方で2024年には米国で、リスクの高さに関わらない一般集団を対象とした研究(Glatzら)が発表され、24ヶ月時点でのアトピー発症が36.1% vs 43.0%と、約16%の減少が確認されています [13]
——効くという研究と効かないという研究があるんですね……。結局どうしたらいいんでしょう?
現時点では、『保湿だけでアトピーを完全に予防できる』とは断言できません。ただ、保湿をすることで肌の状態が良くなること自体には十分なエビデンスがあります。日本のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024でも、保湿によるスキンケアは皮膚バリア機能を改善する基本治療として位置づけられています [14]。アトピー予防に効果があるかどうかの最終結論は今後の研究を待つ必要がありますが、日常的な保湿をして悪いことは基本的にありません。お子さんのお肌を良い状態に保つために、毎日の保湿は続けていただくことをおすすめします
ポイント
- 「新生児からの保湿でアトピー予防」は、効果を示す研究と否定する研究の両方がある [9][10][11][12][13]
- 保湿がアトピーを「完全に予防できる」とは現時点では言い切れない
- ただし、保湿は肌の状態を改善する基本ケアとして推奨されている [14]
- 「予防できるかわからないから塗らない」ではなく、「肌に良いことは確かだから塗る」が正解
今号のまとめ
- プロペトは「ラップ」、ヒルドイドは「化粧水」。それぞれ役割が違います [1][2]
- 口まわり・おむつまわりにはプロペトでバリアを。全身の乾燥にはヒルドイドで保湿を [3][4][5]
- ヒルドイドの4つの剤形は、季節とお子さんの好みで選んでOK [6]
- 塗る量はテカテカ光るくらいが適量。お風呂上がり3分以内がベストタイミング [7][8]
- 新生児からの保湿でアトピー予防の議論は続いていますが、日常の保湿ケア自体は推奨されています [9][14]
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