愛育病院 小児科おかもん だより Vol.471
頭を打ったあとの24時間、何を見る?、夜は寝かせていいのか
今号のポイント
- 2泣いてすぐ元気になっても24時間は観察。嘔吐2回以上・意識消失・ひどい頭痛があれば救急受診
- 4夜に2時間ごとに起こすのは旧説。規則的な呼吸と正常な顔色が確認できれば寝かせてOK
- 6CTの被ばくは無視できない。医師がPECARNルールで「低リスク」と判断できれば撮らずに済む例が多い
こんにちは。愛育病院小児科のおかもんです。
子どもが頭をぶつけた。そのとき、親が一番困るのは「夜、寝かせていいのか」という判断です。
小児救急の電話相談窓口(#8000)に寄せられる相談のうち、頭部打撲は上位に入る主訴です。乳幼児のいる家庭ではとくに多く、0〜1歳代が相談全体の半数以上を占めます。
「泣いてすぐ元気になった。でも心配で眠れない」。そういう夜のために、今号を書きます。
Q1: 頭をぶつけて泣きました。これは救急に行くべきですか?
「棚の角に頭を打って大泣きしました。しばらくしたら泣き止んで、今はいつも通り遊んでいます。でも頭のことだから、やっぱり病院に行くべきか……」
すぐ泣き止んで機嫌が戻ったなら、まずは落ち着いて確認してください。
受傷直後に意識があり、泣けているのは良いサインです。ただし、頭部打撲後の合併症(頭蓋内出血など)は、受傷から数時間後に症状が出ることがあります。元気に見えても24時間は観察が必要です。とくに受傷後48〜72時間以内に新しい症状が出た場合は再受診してください。
医師が「CTが必要か」を判断するときに使うのが、北米25か所の救急部で4万2000人以上を対象に行われたPECARN研究(Kuppermann N et al., Lancet 2009, PMID 19758692)の臨床判断ルールです。あくまで医療者の意思決定支援ツールですが、ご家庭で「これは様子見でいいのか、受診すべきか」を考えるときの目安としても役立ちます。
2歳以上の低リスク6項目(このすべてに当てはまれば医師は「臨床的に重要な頭部外傷の可能性は低い」と判断します):
- 意識がはっきりしている(呼びかけに反応する)
- 意識消失がない
- 嘔吐がない
- 軽い打ち方(自動車事故・1.5m超の転落・硬い物による打撲などではない)
- 頭蓋底骨折のサイン(目の周りの青あざ、耳の後ろの青あざ、耳や鼻からの透明な液)がない
- ひどい頭痛がない
2歳未満の低リスク6項目(PECARN原典準拠):
- いつも通りの様子(acting normally according to the parents)
- 前頭部以外の頭皮血腫がない
- 意識消失がないか、あっても5秒未満
- 軽い受傷機転
- 触って分かる頭蓋骨折がない
- 意識レベルが正常
2歳未満では「親から見ていつも通りか」が最重要のサインです。これらのいずれか一つでも外れる場合は、かかりつけ医か救急を受診してください。
今すぐ119番を呼ぶレベルのサインがあります。起こしても起きない、けいれんしている、明らかに呼吸がおかしい、この三つのどれかがあれば迷わず救急車を呼んでください。
救急受診のサインはこちらです。
- 意識消失が5秒以上あった
- 嘔吐が2回以上(受傷から時間が経ってからの嘔吐も含む)
- 強い頭痛やめまい
- ひどく不機嫌で泣き止まない、ぼんやりしている
- 鼻や耳から透明な液が出る
- 歩けない、話せない
「泣いたけど元気」は安心材料です。ただし、上のサインが一つでも出たら迷わず受診してください。
Q2: 夜に寝かせてもいいですか? 2時間おきに起こすって聞いたのですが
「夜中に定期的に起こして確認するべきと聞いたことがあります。今夜は起こし続けた方がいいのでしょうか」
2時間おきに起こすのは、今では否定されている旧説です。
米国小児科学会(AAP)やNemours KidsHealthなどは、現在この方法を推奨していません。むしろ「安静と睡眠が回復を助ける」という方向に変わっています。
医療機関を受診して「重篤な頭部外傷の可能性が低い」と評価されたあとであれば、夜は寝かせて構いません。
ただし、寝ている間にこれだけは確認してください。
- 呼吸が規則的かどうか
- 顔色が普通かどうか
- 呼びかけると反応があるかどうか
これらが問題なければ、無理に起こす必要はありません。逆に、呼びかけても反応がない、呼吸がおかしい、唇が青い、ということがあれば119番です。
ただし、これは医師の評価を受けたあとの話です。まだ受診していない場合、または前述の救急サインがある場合は、夜でも受診を優先してください。
Q3: CTは撮った方が安心ですか? 被ばくが心配で……
「骨折や出血があっても見落とすのが怖い。でも子どもへの放射線も心配で、どちらを優先すべきか悩みます」
CT撮影は確かに有用ですが、子どもへの放射線被ばくは無視できません。
英国のコホート研究(Pearce MS et al., Lancet 2012, PMID 22681860)では、10歳未満で頭部CT撮影を受けた子どもを長期追跡し、被ばく線量が累積30mGy以上になると白血病のリスクが約3倍に上昇することが示されました。1回のCTで30mGyには届かない場合がほとんどですが、CTを繰り返すほどリスクは積み上がります。
だからこそ「必要な子には撮る、不要な子には撮らない」の判断が重要です。
前述のPECARNルールは、まさにその判断のために作られました。「低リスク」と判断された場合に、あとから重大な頭部外傷が判明する確率は2歳以上で0.05%(陰性的中率99.95%)。神経外科の介入が必要なケースの見落としはゼロでした。「CTを撮らなくて見落とした」リスクより「CTの被ばくによる将来のリスク」の方が大きい場面が多い、ということです。
日本小児神経学会も2019年に国内向け指針(小児頭部外傷時のCT撮像基準の提言・指針)を公表しており、PECARNを基盤にしながら日本の医療環境に即した基準を示しています。
CT撮影の判断は医師が行います。「CTしてほしい」「CTは嫌だ」どちらの希望も伝えた上で、担当医と一緒に決めてください。
乳児(とくに首が座る前の赤ちゃん)は別途注意が必要です。大泉門の膨隆、哺乳不良、嘔吐の繰り返し、明らかな元気のなさがあれば、軽い打ち方でも受診を迷わないでください。また、転落の状況と外傷所見が合わないと感じたとき、医師は虐待性頭部外傷(AHT)の可能性も念頭に置いて診察します。「説明と所見が一致しない」ことが重要なサインになるため、受傷の状況をありのままに伝えることが子どもを守ることにつながります。
頭を打った夜は、親も眠れないものです。観察ポイントを把握した上で、「呼吸・顔色・呼びかけへの反応」の三つを確認しながら、一緒に朝を迎えてください。